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穂村大樹

第39話 大量、部室の小説たちは

俺は集合場所に指定された東駅で緑彩先輩を待っている。

緑彩先輩が集合場所に指定した東駅は、緑彩先輩に振られた俺が涙を流しながら走ってたどり着いた場所だ。
その事実を知ってか知らずか、緑彩先輩は俺との2人きりでのお出かけの集合場所を東駅に指定してきたのだ。

まぁ知ってるわけないけどな……。

そんな東駅に緑彩先輩と2人で出かける日がやってくるとは想像しておらず、駅の周辺を見渡して、たった数ヶ月前の出来事だが懐かしさすら覚えた。
俺が逃げてきたときはクリスマスでイルミネーションされてたっけ。

というか、結局緑彩先輩はなぜ俺を誘って出かけようとしたのだろうか。

「お待たせ」

後方から緑彩先輩の声が聞こえ、後ろを振り向く。

「いえ、全然待ってないで……」

緑彩先輩の姿を目にした俺は硬直し、言葉を発することをやめた。

緑彩先輩の姿に見惚れてしまったからだ。

美人な先輩のイメージとは異なるが、ギンガムチェック柄のロングスカートにゆるっとしたビッグパーカーを身にまとった先輩がいつもより魅力的に見える。

しかし、逆にそのゆるっとしたコーデが今日のお出かけはデートでもなんでもなく、ただ部活の後輩と出かけるだけということを如実に告げてくる。

嬉しいような哀しいような。

「どうかした?」
(なんでもないです緑彩先輩が綺麗過ぎて見惚れていまいました)

なんてキザなことは言えるわけもなく。

「いえ、ちょっと目にゴミが入っちゃって。その服似合ってますね」

これが俺に言える最大限の褒め言葉だ。

「流石白太くんね。デートに来た女の子の服を褒めるのはもちろん、女の子より先に集合場所に来て全然待ってないと言えるその度量はどの女性から見ても魅力的なものだと思うわよ」
「デ、デート?」
「な、なんでもないわ。早く行くわよ」

緑彩先輩は勢いでデートと言ってしまっただけだろう。意識しているのはこちらだけ。

それにしても、どの女性から見ても、か……。

俺としてはどんな女性よりも先輩から魅力的に思われたいところなのだが。

なにはともあれ、緑彩先輩と合流した俺は緑彩先輩の後ろについて歩く。横を歩くのは恐れ多いので後ろが丁度良い。

そして到着したのは東駅から程近い本屋。

本屋であれば別に俺と2人で来なくてもいいし、ここはいつも緑彩先輩が来ている行きつけの本屋なんじゃないか?

「緑彩先輩、今日の目的はここですか?」
「ええ、ここに決まってるじゃない。それじゃあ買って買って買いまくるわよ‼︎」

緑彩先輩は新刊が出た小説を探して歩き回り、値段など全く気にする様子もなく、次々と小説をカゴにいれる。

「せ、先輩、こんなにたくさん買って大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。このためにバイトして貯めたお金もあるし」

流石緑彩先輩だ。

生徒会長で文芸部が廃部になりそうになりながらもたった1人で文芸部を存続させ、その上でバイトをしながら自分の好きな小説を購入する。

その姿は、俺が文芸部員として見習わなければならない模範であることは言うまでもない。

「部室に置いてある大量の本たち、あれ、全部私が文芸部に寄付してるのよ」
「え、ほんとですか⁉︎ あれって緑彩先輩が自費で買い揃えたものなんですか⁉︎」
「だからそう言ってるじゃない」

ま、まじかこの人。

部室の壁一面を埋め尽くしている本棚に並べられた小説は全て緑彩先輩が自費で購入したものだっていうのか?

やばい、そんな話を聞いてしまったら俺の中で緑彩先輩という存在がまた大きくなってしまう。

「よし、とりあえずこれで目的の小説は網羅したわね。付き合わせて悪かったわ」
「これくらいお安い御用です。それに、これだけ買うなら荷物持ちが居た方がいいでしょうし」

緑彩先輩が購入した小説は総重量20キロを超えるだろう。
俺を誘った理由が荷物持ちだと言うのであれば、それほどしっくりくる理由は他に無い。

「ありがと。折角だしちょっとショッピングでもしていこうかしら」
「部長、地の果てまでもお付き合いします」

そして俺は緑彩先輩が購入した大量の小説を両手に持ったまま、ショッピングに付き合うことになった。

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