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穂村大樹

第36話 迷走、助けを求めて


「急に呼び出してごめんなさい」
「全然、問題無いです」

私はファミレスに紅梨を呼び出して、今朝の一件について相談をすることにした。

青木さんとの話しが終わってから、1日中今の状況の整理と、この先の立ち振る舞いについて考えた。
しかし、答えは浮かばず文芸部に入部して以来初めて部活を休んで紅梨に相談している。

「それで相談なんだけど……ってあれ、何を相談したらいいのかしら」

とりあえず紅梨を呼び出したは良いものの、何をどこまで説明して、どう相談すれば良いのか見当がつかない。
気持ちの整理もできていない状態で相談しようってこと自体が間違ってたのかも……。

「白太がクラスメイトに罵られているところを見た青木さんが教室に乱入し、白太と付き合っていると暴露したところを見て動揺した緑彩先輩はこれからどうすれば良いのか……、という事ですか?」

……やたらと察しが良いわね。

私が悩んでいることを的確に言い当てた紅梨は表情を変えず、私の目をじっと見つめてくる。

「そ、その通りよ。これからどうしたらいいのか分からなくて……。今まで白太くんが他の女の子と付き合うなんて考えもしなかったし。それに、私が部室にいたら彼らの邪魔をしてしまうんじゃないかって思うと部室にも行きづらくて……」
「いや、邪魔ってことはないと思います」
「そうかしら……。白太くんのことを振った私なんて必要のない邪魔者じゃないかしら」

文芸部では白太くんと青木さん、それに玄人くんと紫倉さんも付き合っている。

私の居場所など存在しない。

「先輩、1ついいですか?」
「ええ。何でも言って」
「私、白太のことが好きなんです」

――紅梨が白太くんのことを好き⁉︎

私の聞き間違いとかではなくて⁉︎

「え⁉︎ も、もう一度言ってもらえるかしら」
「私は白太が好きです」

どうやら私の聞き間違いでも何でもなく、紅梨は本当に白太くんのことが好きなようだ。

紅梨は笑顔を見せ気丈に振る舞っているが、自分の好きな人が付き合っていると言う事実を知ったという状況は私と同じ。
もっと辛いはずなのに、痩せ我慢だとしたものなぜ笑顔を作れるのだろうか。

「そ、そうだったのね……。無神経な相談をしてごめんなさい」
「いえ、私も先輩に白太が好きだってことを打ち明けて悲しみを分け合った方が気楽になれると思ったので」
「白太くんのことを好きだったのは私だけじゃなかったのね……」
「好きだって気づいたのは最近のことですけどね。だから、先輩が邪魔者なら私も邪魔者です。邪魔者は邪魔者らしく、白太と青木さんの関係をどんどん邪魔しちゃいましょう。もちろん、限度はありますけどね」

私はなんて馬鹿なんだろうか。白太くんのことを自分勝手な都合で振っておいて、白太くんに彼女ができたと知ったら動揺して、同じ辛さを味わっている紅梨に相談して……。

自分勝手極まりないわね。

でも、紅梨だって私と同じ状況で白太くんのことを諦めずに頑張ろうとしている。私も白太くんのことを諦めたりなんかしない。紅梨は私にそう思わせてくれた。

「そうね。とことん邪魔してやりましょう。白太くんが私のことを好きじゃなくなったからって、それが諦める理由にはならないもの」
「……多分、白太は緑彩先輩のこと、まだ好きですよ」
「……え?」
「確証は無いですけど、多分まだ緑彩先輩のことが好きです」

いや、そんなはずはない。青木さんと白太くん自身が付き合っているという事実を認めたのだから、白太くんが私のことを好きだなんてあり得るはずがない。
……でも、紅梨の言うことが本当ならなぜ白太くんは好きでもない青木さんと付き合っているのだろうか。

「そ、そんなことはないと思うけど。お互い頑張りましょう」
「はい。これからはライバルですね。とはいっても、青木さんは今年文芸部に入ってきてくれた大事な新人ですし、緑彩先輩は文芸部になくてはならない存在です。これからも仲良くしてくださいね」
「紅梨……。ありがと。元気出たわ」

紅梨のおかげでこの先の方向性を決めることが出来た。
それに、さっきまでは曇りきっていた私の心の中は雲一つない青空へと変わっている。

「あ、緑川先輩‼︎ こんなところにいたんですか‼︎」
「え、青木さん? それに紫倉さんに玄人くんと……白太くんまで⁉︎」
「紅梨先輩に場所を聞いたら一緒にいるっていうから、みんなできちゃいました」

青木さんがそう答えたのを聞いて紅梨の顔を見ると、フッと小さく微笑んだ。

やってくれるわね……。本当にありがとう。

こうして私は紅梨に大きな借りが出来た。

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