好きな人が出来たと俺に別れを告げた元カノの想い人は俺じゃないけど俺だった

穂村大樹

30話 決意の姿

水菜と結衣が二人で会話しているのを目撃した翌朝、寝覚が悪くなるかと思っていたが、カーテンの隙間から差し込んだ陽の光のおかげで気持ちよく目が覚めた。
カーテンを開けるとだだっぴろい青空を遠慮がちに流れる雲が目に入ってくる。

あの雲、友達もおらずずっと一人ぼっちで、自分の意思ではなく結衣という風に流されるがままだった俺みたいだなぁ。いや、こんなクズな俺と比較するのは雲さんに失礼か。ごめん雲さん。次会ったら君の上に俺を乗せてね。

とまぁふざけて見せてはいるものの、結衣を振ると考えると緊張せずにはいられない。唯一の救いはこの天候だろうか。
結衣を振る時にどんよりとした曇り空だったり雨が降っていたりするよりも、こうして晴れ渡っていた方が俺としては結衣を振りやすい。

青空を眺めながら、よしっ、と意気込み俺は身支度を始めた。

普段学校に行く時は多少付いている寝癖を抑えるために軽く水を付ける程度だが、今日はやる気を入れるためいつもより入念に身支度をした。

身支度を終えてからリビングで母さんが作った朝飯を食べる。
母さんは看護師で今日も朝早くから仕事のため、テーブルの上に置かれた作り置きの朝飯を口へと運んだ。いつもうまい朝飯をありがとう、不登校になったらごめん。てか多分なる。
いつも面倒を見てくれる母さんへの感謝の気持ちを何故か普段よりも強く感じた。

そして朝飯を食べ終えた俺は入念に歯を磨き、カバンを持って家をでた。



◇◆



午前中の授業を終え、遂に作戦を実行する昼休みがやってきた。中庭に行く前にトイレに入り、鏡を見ながら身なりを整える。今日の作戦を実行するためにはビシッとした姿でないと気持ちも入らない。

身なりを整え終えると俺はトイレを出て中庭に向かった。
とはいえ、今日は水菜と昼飯を食べるために中庭に向かっている訳ではない。結衣を振るために中庭へと向かっているのだ。
結衣には事前に中庭に来るよう伝えてある。トイレで身支度をしていた俺は結衣に伝えていた時間よりも五分程遅れて中庭に向かった。

中庭に向かう途中、廊下で水菜と遭遇した。実は中庭に呼んでいるのは結衣だけではない。水菜の事も中庭に呼んであった。

「あれ、先輩言ってた時間よりちょっと遅いんですね」

「水菜も遅いじゃないか。もう五分遅刻だぞ」

「みっ、水菜……。ええ、お手洗いに行っていたので。ってあれ……え⁉︎ 先輩⁉︎」

水菜は俺の姿を見て目を丸くした。水菜の反応は予測していたので、何事も無いかのように会話を続ける。

「どうした?」

「え、どうしたじゃないですよ逆になんで驚かないと思ってるんですかてか真顔やめてください」

水菜が驚くのも無理はない。水菜が驚くだけの理由が今の俺にはある。ただ、今はまだその事に触れてほしくない。

俺はいつもと何も変わらないフリをした。

「いつも見てる俺だろ? 理由も無く驚かれたら驚くって」

「いや、まぁそうなんですけど。こっちからしたら何言ってるんだって感じですよ。驚く理由がありすぎて辛いです」

「まあとりあえず中庭に行こうぜ。水菜ももう向かうところだろ?」

「みっ……。そうですね。早く行きます」

俺が水菜を名前で呼んでいると水菜は少し後退りしながら狼狽している。名前で呼べって言ったのあなたですよね。自分で名前で呼べって言ったのにそんなに恥ずかしそうにされたらもう俺水菜の事名前で呼べないんですけど。

なんならあだ名で呼ぼうか? みっちゃんとかみっちとかみずみずとか。自分で言ってて寒気するわブルブル。

「今日は弁当要らないって言ってましたけどなんでなんですか? 購買でお昼ご飯買ってる様子もありませんし」

「まぁ色々だよ。とりあえず水菜も来てくれ」

「はい」

そして俺は水菜を連れて中庭へと向かった。

中庭に向かう途中、俺と水菜の間に会話はない。水菜は今、何を考えているのだろうか。まさか俺が今から結衣の事を振るとは思っていないだろう。
とか言いながらこれでまたチキって結衣を振れなかったらもうどうしようもねぇな……。いや、流石に今日は振れる。というか振らざるをえない。

中庭に到着すると結衣はすでに中庭に到着しており、長い髪を後ろに払いながら大きな木を見上げ佇んでいた。

そんな結衣に俺は後ろから声をかける。

「よっ。結衣」

「あ、榊くん……。--えっ?」

「……」

「坂井……くん?」

結衣は今の俺を。坂井の姿を見て驚いた様子を見せた。

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