好きな人が出来たと俺に別れを告げた元カノの想い人は俺じゃないけど俺だった

穂村大樹

第11話 同じ言葉

真野の作戦はあれから一週間ほど続き、その間俺は毎日中庭で真野と昼飯を共にしていた。

仁泉とは対面のデートを避けラインのやり取りだけに留めているが、いつまでもそうしている訳にはいかない。
出来るだけ早く仁泉の事を忘れたいが、真野の考えた作戦は中々上手くいかず俺の仁泉に対する気持ちは無くなるどころか増幅していた。

そして俺は今日も中庭で真野と昼飯を食べており、俺の横に座っている真野はタコさんウインナーを頬張りながら幸せそうにほっぺをとろけるさせている。てかなんで真野と一緒に昼飯食べるのが普通になってんの? 俺の平穏な日常は何処へ?

「いいのか? 最近ずっと俺と飯食ってるけど。今まで一緒にご飯食べてた友達とかに嫌われたりしない?」

「別にそれくらいで嫌われたりしませんよ。その卑屈な考え方がいかにも先輩って感じです」

卑屈で悪かったな。今までの人生で形成されたこの性格は中々治るものではない。バイト先では明るく振る舞っているが、あれはかなり無理をした姿だ。最先端のLEDくらい明るい真野と、ろうそくの火くらい儚く暗い俺が関わっているのは奇跡なのである。一吹きで消え去っちゃうから気をつけて。

「卑屈が俺の持ち味みたいなもんだからな。そんな卑屈先輩と一緒に昼飯食べてるとこ見られたら厄介なんじゃないのか?」

「別に私が誰といようと勝手ですし、それを誰かにとやかく言われたところで何も嫌じゃないですよ」

俺と一緒にいる事を嫌がらないでいてくれるのは素直に嬉しいしありがたいけどさ、せめて少しは卑屈って部分を否定してくれない? まあ自分の性格が卑屈なのは自分が一番理解してるし反論する事は出来ないけど。

「真野が気にしてないならいいけどさ。次の作戦は何か思い浮かんでるのか?」

「まあ思いついていると言えば思いついているというか、今まさにこの状況が私の作戦です」

「この状況が? 弁当食べてるだけなんだけど」

「それこそが私の作戦なんですよ」

何か行動を起こしているのであれば真野が言っている事も理解出来るが、二人で弁当を食べているだけのこの状況が作戦という真野の発言は理解し難い。
まさか俺に弁当をたらふく与えて太らせて仁泉と別れさせるって事⁉︎ だとしたら怖すぎない? 後輩コワイ。恐ろしい子‼︎

「何が作戦か全然分かんないんだけど。え、もしかして弁当に毒でも入ってた? もう何も考えないで済むようにしてやろう的な話? 考え方が悪魔的なんだけど」

「そんな事女子高生が考えると思います? あとせめて小悪魔って言ってくれません?」

「はいはい小悪魔さん。じゃあ作戦ってなんなの?」

「先輩、今私の事どう思ってます?」

「ただの後輩だけど……てイテッ‼︎」

俺の回答はどうやら真野の思い描いていた回答とは違ったようで、肘で脇腹を殴打された。俺一応先輩だよ? 気に食わないからって先輩に肘打ちくらわせる後輩とか普通いなくね?
なんにせよ、何か別の回答をしなければまた真野に肘打ちされる。

「もう一回聞きますけど、私の事どう思ってます?」

「……いい後輩だなって思ってる。バイトも頑張ってるし、学校での俺の姿を知った時も態度変えないでいてくれたし。それに今も俺に協力してくれて弁当まで作って来てくれて、悪いところは一つも見当たらないかな」

「あ、ありがとうございます。まあ要するにですよ、こうして弁当作ってくれたり仁泉先輩を忘れるために一緒に作戦を考えてくれる女性がいる訳じゃないですか」

「まぁそれを自分で言っちゃうとありがたさ半減だけどな」

「別に私の話をしてる訳じゃないので黙って聞いてください。……先輩にとっていい女性ってたくさんいると思うんです。仁泉先輩だけじゃなくて先輩の事を考えてくれる優しい女性がどこかにいるはずなんですよ。仁泉先輩は先輩にとって運命の人じゃなかったって事じゃないですか?」

真野の言葉を聞いた瞬間、狭まっていた俺の視界が一気に開けたような気がした。

今の真野の言葉、新泉が失恋した時に俺がかけた言葉と全く同じなのだ。
俺が仁泉を好きになったのは一目惚れでそれ以外理由は無い。仁泉に振られてしまったが、別人として再び仁泉と付き合うチャンスがやって来た俺の視界は狭くなりすぎていた。

自分でアドバイスした言葉を他人に言われてりゃ世話ないな……。

「……確かにそうだな。真野の言う通りだわ」

「あれ、えらく素直ですね」

「まあな。この先どうするかはまだ考えないと分かんねえけど、とりあえずは真野の作戦にしてやられたわ」

「ならよかったです。明日には仁泉先輩を好きな気持ちを忘れてる、って事は無いでしょうけど時間が解決してくれると思います。先輩ならすぐに仁泉先輩のことを忘れて新しい恋に迎えますよ。まぁそれよりも先に今の厄介な状況をなんとかしないとですけど」

「そうだな。出来れば丸く収めたいけど、最悪そうならなくても仕方ねぇか。自己責任だし」

「なんでも言ってください‼︎ 協力しますから」

そう言って俺に向けて笑ってみせる真野の笑顔はいつもより輝いて見えた。

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