王太子に求婚された公爵令嬢は、嫉妬した義姉の手先に襲われ顔を焼かれる

克全

第2話:嬲り者

「おい、おい、おい、そんなに慌てるなよ、どうせ最後は殺すんだからよ」
「そう、そう、そう、死体は何も話せないから大丈夫だよ」
「だれかが来たらそいつも殺しちまえばいいんだよ」
「女だった並べてやっちまおうぜ」
「「「「「ウッヘッヘッヘッヘ」」」」」

 殺すと言っては私を怖がらせ、直ぐ取り消して嬲り者にすると言っては怖がらせる、本当に性根の腐った連中ですね。
 せめて何か武器があればいいのですが、腑抜けの家臣達は自分達が逃げるのに精一杯で、武器一つ残していきませんでした。
 
「いい加減にしやがれ!
 俺は殺されるのはごめんだからな。
 さっさと殺して終わりにするぞ。
 それともあの方の逆鱗に触れて殺されたいのか」

「分かったよ、もったいないが殺すよ、殺す」

「じゃあ死体を回収していいだろ。
 死体をアジトに運び込んで愉しんでもいだろ」

「駄目だ、アジトがバレるとあの方に殺される。
 もう俺一人でやる。
 お前達はあの方の逆鱗に触れるがいい」

 こいつらの黒幕はよほど恐ろしい奴のようですね。
 先程までの緩んだ言動が一気に緊張感の満ちたモノになりました。
 もう覚悟を決めて大魔術を行使しなければいけませんね。

 ヒッィイイィイイイイン
 ドガッゴン。

「ギャアアアアア」

「ア・バオ・ア・クゥー!」

 私の愛馬アバオアクーが助けに来てくれました。
 家臣達が私を見捨てて逃げてしまったのに、屋敷にいたアバオアクーは私を助けにここまで駆けて来てくれました。
 こんなにうれしい事はありません。

「何をしている、それでもお前ら剣士か。
 脚だ、軍馬は脚を斬るんだよ」

「ア・バオ・ア・クゥー、逃げて」

 ギャツヒッィイイィイイイイン。

 ああ、ア・バオ・ア・クゥーの脚が、脚が斬り裂かれてしまいました。

「このままユルシュルを斬り殺せ。
 馬が来た以上助けが来るぞ。
 急いでやってしまうんだ」

 ヒッィイイィイイイイン。

 もういい、もういいのよ、ア・バオ・ア・クゥー。
 これ以上やったら貴方まで死んでしまうわ。
 もう脚が千切れかけているわ。

「姫様、助けに参りましたぞ、姫様」
「ウォオオオオオ」
「死ねぇえええええ」

 ロドリグ、サロモン、ヴィオレット!
 流行り病で寝込んでいたはずなのに、助けに来てくれたのですね。

「いでよ、肉を焼く猛き炎」

 なんで今、大した攻撃力のない初級の火魔法を使うの。

「いでよ、肉を焼く猛き炎」

 え、また、なんで。

 痛い、熱い、痛い、熱い、顔が、顔が痛くて熱い。

「いでよ、肉を焼く猛き炎」

「ひめさまぁああああ!
 おのれ、死にさらせ」

 助けて、助けてヴィオレット、顔が、顔が、私の顔が。

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