修学旅行

ちゃび

第10話 帰国

10日振りに日本に帰ってきた。
久しぶりの家。
玄関を開けるとお母さんが出迎えてくれた。
「おかえり〜まりん!修学旅行どうだった〜?夜ご飯食べるわよね?」
それどころじゃない。なんで返事したか覚えてない。
それよりもやることがある。
確認したいことがある。
キャリーケースに入っていた必要な物を取り出し、服は洗濯機に詰め込んだ。
(あ、この袋。ウィリアムス夫妻がくれたお土産。。)
でも、今の私にはこんな物は必要ない。
捨てるわけにもいかず、とりあえず袋を投げるようにほっぽった。

急いで洗面台へ向かう。
白い体重計が目の前にある。
自慢のプロポーションを手に入れ、体重を測ることに楽しささえあったのに、今日はあまり前向きにはなれなかった。
ホテルで張っているように見えたお腹は、座ると確信に変わった。お腹にスカートが密着し少し苦しく、座っている時にスカートの上をブラウスから触るとすこしだけ柔らかい感触があった。
10日前の自分にはなかった感触だ。
確かめる必要がある。そう思って急いで洗面台へ来たのだ。
体重計に乗る。

47kg。

無情にも4kg増えた値を体重計は示した。
やばい。やっちゃった。。
太った理由は明確だ。
あれだけ食べていたら、誰でも太る。
そして、それと同時にそこまでの危機感はなかった。
なぜなら、35kgのダイエットに成功した過去があるからだ。
(これくらい。すぐ痩せれる。)
そう確信していた。

12月23日ラストの登校日。
リンリンリンリンリン!
静かな自室にスマートフォンの目覚まし音が鳴り響く。
(もう。朝。。疲れが取れない。。)

「まりん、起きなさい〜!いつまで寝てるの〜!!」

母の声が耳の底まで鳴り響き、のっそりと起き上がる。
階段を降りると、キッチンにはいつも通りエプロン姿のお母さんがいた。
「お母さん、おはよう。今日何も朝ごはんヨーグルトだけでいいから。」
「何言ってるの〜ちゃんと食べないとダメじゃない!!」
「気持ち悪いの。何度も言わせないでよ。」
「いつもそうやって。目にクマもあるし、やつれてるわ。お母さんは心配なの。」

お母さんに強く諭されたが、ヨーグルトと水を飲み洗面台へ向かう。
数日前に嫌な数字を私に示してきた体重計が目の前にある。
決意を胸に、体重計に乗る。

43kg

やった!!
元に戻った。
オーストラリアから戻ってきて数日、自室に篭り湧き上がる食欲を抑え、水やヨーグルトなどで凌いだ。
努力は裏切らない。
洗面台の鏡を見ると、お母さんの言うように目の下にはクマがあり、目も水を失った魚のように死んでいたがまりんの心の中は達成感に満ちていて、そんなことは気にならなかった。
もう絶対に太らない。その文字を削り込むように何度も言い聞かせた。

終業式を終えると、さやかがショッピングモールに行こうと誘ってきた。今日は部活が定休日らしい。
プリクラを撮って、アパレルやアクセサリーを見た。
久しぶりに歩いて疲れてしまった。

疲れたので休もうと話していると、新しくできたイタリアンレストラン サイヤスヤの看板を見つけた。
ピザや、パスタなどが1時間食べ放題で1500円らしい。さらに回数券を買うと1回あたり900円になるという。
ショーケースには様々な種類のピザに、パスタが置いてある。
どれもとても美味しそうだ。
バイトをしていない高校生にとっては少し高いし、今後決して太らないと決めていたから、食べないで帰ろうとしたが、まるで僕を食べて欲しいと訴求するかのように炭火焼きやカルビ、テリヤキにチーズを振りかけた美味しそうなピザが目に入ってしまった。

(少しなら。。元に戻ったし、ダイエットなら得意だから、大丈夫だよね。。)

そう思い、さやかを無理やりレストランに引き入れ、テーブルに着く。
はじめは、1500円の元を取ったら終わりにしようと思っていた。
しかし、チーズやソースがふんだんに使われていてとても美味しく、食べ始めると「次はあの味を食べろ」と脳が要求してくる。ここのところ、栄養が、体の中に取り込まれていなかったため、体が渇望していたのだ。
結局、ピザとパスタをたらふく食べ、私たちは帰った。
もちろん、回数券は買わなかった。私だって流石にそんな馬鹿じゃない。

(明日からまたダイエットすればいいよ。明日から。)

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