修学旅行

ちゃび

第3話 まりんの過去 中学校編

そんな生活を1年送り、私は中学生になった。

入学式の朝。その日は、日は出ていたものの、雲が多くいつ天気が悪くなってもおかしくないような日だった。また、雨が続いたこともあり、花びらの大半が散り落ちて、残骸のようになってしまっていた。

今日から私立蓮花中学に通う。

「まりんー!いつまで寝てるのー!早く起きなさーい!」
そんな声で私は起きた。
階段を降りると、お母さんが自分の弁当を作っていた。
エプロン姿が似合う大好きなお母さんだ。
今から考えると想像がつかないくらいこのときは痩せている。
私はダイニングテーブルに腰をかけ、トーストにたっぷりのバターやチーズ、ハムをのせる。これを2枚にお母さん手製のスクランブルエッグを食べる。

何一つ変わらない。そんな1日だと思った。
そして、去年の夏にあつらえた制服に着替えるため、自室に戻った。

キャミソールを着てブラウスの袖に腕を通そうとした時、まりんは違和感を覚えた。

(あれ、少しきつい。。去年試着したときは普通だったのに。)
袖には一切のゆとりがなく、柔らかい腕にぴったりと張り付いている。
少し腕を曲げると今にも服から悲鳴が聞こえそうだ。
ブラウスのボタンを首元から、胸、お腹と止めていく。
胸からもお腹からもぷにょんとした感触が手に伝わってくる。
(女の子は成長期で体型が変わるなんて。。大変だなぁ。。)
今でもそう思い込んでいた。
スカートに手を伸ばし、スカートを穿こうとした…が、穿けなかった。
スカートのファスナーが半分までしかあがらない。にも関わらず、ピチピチで今にも破けそうだ。無理やりホックを止めようとしたが、お腹の贅肉が邪魔をして届かない。

おかしいと思い、私は姿見の前に立ってみた。

(え…。なにこれ。。)

小ぶりでかわいらしい顔ではあるが、顎には少し肉がつき始めていた。
身につけているブラウスは横に伸ばされ、ボタンを中心に横縞を形成している。
そのブラウスの下には、この年代にしては大きな胸が2つ。
しかし、それに負けないように下腹部もぽっこりと出ている。
立っていても簡単に手でつまむことができる。
そして、閉まらないスカートからは大人の女性のようなお尻と贅肉がついた太ももがうかがえる。

「まりん〜まだなのー!?はやくしないと遅刻しちゃうわよー」
と言いながら急いで階段をとんとんと登ってくる母の声が聞こえる
(まずいよ、どうしよう。。)
そう考えてる間に、扉の向こうから
「もう、はじめての制服にてこずってるの?開けるわよー!」
「あ、ちょっと、まっt…」

お母さんは扉を開け、一瞬固まった。ブラウスがピチピチでスカートが閉まらない娘を見てびっくりした様子だったんだろう。
お母さんは察したようにこう続けた。

「あら、ごめんなさい…。少しぽっちゃりしたかしらとは思ってたんだけど、、うーんそうね、そんなこと話してる場合じゃないわ。とりあえず家にあるものでどうにかしましょ!」

お母さんの提案で家にあった、安全ピンをホックの代わりにしてスカートを止めることはできたが、今度はブレザーのボタンを閉めることができない。

「まりん、お腹引っ込めて!」
私は一気に息を吸い、その間にお母さんが両手でボタンを閉めた。一気に吸っていた息を吐くとお腹周りが苦しい。
「はぁはぁ。」
「うん。まぁ、これでなんとか大丈夫ね。まりん最近…少し…よく食べてたじゃない?これからは少しずつ痩せていきましょうね。」

(わたし、ぽっちゃり…?太ってるってこと…?痩せる…?でも成長期だからって。どういうこと…?)
色々と考えようとしたが、入学式まで時間がなく、急いで家を出て、駅まで走るようにして歩いた。
お母さんは、息をあげていた私の手を一生懸命に引っ張った。
春休みの間、ずっと家でゴロゴロしていた私にとって、久々に歩いたためか、入学式が始まる頃には全身疲労感につつまれていた。


入学式がはじまった。クラスごとに体育館に入る。
体育館に入り、起立したまま整列すると生徒の名前が順番に呼ばれた。
体育館の曇りガラスからは太陽光が入り眩しかった。
「彩木まりんさん!」
「はい!」
目を細めながら、私は返事した。
全員の名前が呼び終わり、校長先生の話が始まろうとしたとき、太陽を雲が覆ったのか、昼とは思えないくらい暗くなった。
疲労感につつまれていた私にとって校長先生の話を立ちながら聞いているのは辛かった。
早く終わって。そう願っていた。

「はじめての中学校生活。実りのある3年間にできるよう有意義な学校生活を送ってください。」
校長先生はそう言って降壇し、司会の学年主任にマイクが渡る。
「校長先生ありがとうございました。新入生の皆さん。ここからは、在校生から歓迎の挨拶になります。準備に少し時間がきかるので、着席して静かに待ってください。では、着席。」

静かな体育館。
(よかった。座れる。)
そう思い、これまでの疲労から倒れるように座り、気を吐いた。
そのときだった。

ぱちん!

何が起きたのか分からなかった。
私のお腹から音が鳴ったような…気がする。
両隣の子が怪訝そうに私を見てくる。
え?なに?
なんの音?
わたしの頭の中には疑問符が乱舞していた。

右前の男子が何か小さいものを持ちながら話している。
そして私の方を向いてきた。

「このボタン、君の?」
「え…。」

声が出なかった。
男の子はブラウスのボタンを手にしていた。
少し目線を下にやると、あるはずのブラウスのボタンがない。
腰についた贅肉を無理やり引っ込めて着たブラウスのボタンは、勢いよく座って、贅肉が一気に集まる衝撃に耐えられず外れてしまったようだ。
ボタンをささっと受け取るも、言い知れぬ羞恥の情に駆られた。

「あの女、デブすぎん?」
「ボタン…?まじやばいんだけどw」
後ろからやんちゃそうな男のささやく声が聞こえた。
体があっと萌えるように恥ずかしかった。

そのあとのことはあまり覚えていない。
逃げるようにして入学式を後にした。

自分が太っていることを自覚したのはそのときだった。


絶対に痩せる。
そう誓った。

数日後、健康診断があった。
身長155cm 体重64kg
肥満気味と言われた。そりゃそうだよね。
でも痩せるって誓ったから。

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