婚約者は爵位狙いの悪党でした。

克全

第1話:裏切り・エレオノール視点

「ああ、ディアーヌ、凄く凄く会いたかったよディアーヌ」

「私もですわ、ミキャエル。
 ミキャエルに会いたくて会いたくて胸が張り裂けそうでしたわ」

「僕もだよディアーヌ。
 ディアーヌに会えないのが辛くて胸が張り裂けそうだったよ」

「本当ですか、嘘ではありませんか。
 ミキャエルは、屋敷では私の事など無視しているではありませんか。
 エレオノールとばかり話して、私とは視線も合わせてくれないではありませんか。
 本当は私よりもエレオノールの方が好きなのではありませんか」

「ああ、ディアーヌ、僕も辛く哀しいのだよディアーヌ。
 僕はラッセル伯爵家の三男で、父の命令には逆らえないのだ。
 エレオノールとは政略で婚約しているだけなのだよ
 本心ではエレオノールの事などなんとも思っていないのだ。
 僕も辛く哀しいのだよ、分かってくれディアーヌ」

「そうだったのですね、ミキャエル。
 政略で仕方なくエレオノールと婚約しているのですね。
 だったら私がプランプター公爵家の後継者になれば、ミキャエルは私と結婚してくれるのですか」

「もちろんだよ、ディアーヌ。
 僕が父にエレオノールと婚約させられたのは、エレオノールがプランプター公爵家の後継者からだからだよ。
 エレオノールの事など何とも思っていないよ。
 ディアーヌがプランプター公爵家の後継者になったら、僕も父に頼んでエレオノールとの婚約を解消してもらうよ。
 その時には僕をディアーヌの婚約者に選んでくれるだろう。
 いや、ディアーヌと僕の仲なのだから、婚約などは時間の無駄だよ。
 その時は直ぐに結婚しようよ」

「はい、ミキャエル、きっとそうしますわ。
 だから、私に手を貸してください、ミキャエル。
 邪魔なエレオノールを排除するのを手伝ってください。
 幽閉したりするだけではいつ反撃されるか分かりません。
 私達のために思い切って殺してしまいましょう、ねえ、ミキャエル」

「もちろんだよディアーヌ。
 どんな事でも手伝わせてもらうよ、ディアーヌ」

 情けなく哀しい事ですが、涙は出ません。
 だって、ミキャエルが私の事を愛していない事は薄々感じていましたから。
 貴族の結婚に恋心など意味がない事も知っていました。
 貴族の結婚に必要なのは家の格があう事と政治的軍事的な都合です。
 だから私に相手を選ぶ権利などありません。
 本家であるマクスウェル王家の政治的な利益と、プランプター公爵家の近親者の損得勘定だけです。

 それでも、まさか妹と不義密通しているとは思っていませんでした。
 しかもその妹のディアーヌが、私の婚約者であるミキャエルを利用して、私を排除しようとしているとは思いもしませんでした。

 ミキャエルは、同じ女公爵の配偶者になるのなら、操り易いディアーヌの方がいいと思って、私を殺す手助けをしようとしているのでしょうか。
 それとも、ディアーヌと一緒に私を殺す事で共犯者となり、ディアーヌに対する発言権を強めようとしているのでしょうか。
 まさか、私を殺した後でディアーヌも殺して、完全にプランプター公爵家を乗っ取るつもりなのでしょうか。

 ディアーヌは美しい外見とは違って腹の中はどす黒く汚れきっています。
 多分ミキャエルは使い捨てにするつもりでしょう。
 私を殺すのに利用しておいて、後で姉の仇といって殺するはずです。
 ディアーヌならそれくらいの事は平気でやってのけます。
 さて、私はどうするべきでしょうね。

コメント

コメントを書く

「文学」の人気作品

書籍化作品