婚約破棄戦争

克全

第12話

「陛下。
コナン王にもギャラハー王家にも、何の落ち度もないと臣は思います。
しかしながら、ギャラハー馬はギャラハー王国の産でございます。
恐らく故郷に帰る事でしょう。
コナン王には、逃げた馬を帰すように命じてはいかがでしょうか」

「ほう。
逃げた馬を帰すべきだと申すのか」

「逃げた馬には持ち主がおります。
人の上に立つ王ならば、持ち主に返すべきだと思います。
陛下はいかに思われますか」

「確かに、人の上に立つ者には責任がある。
逃げた馬を保護したなら、返すのが良識ある人間の道だろう。
だが同時に、落とし物を届けてもらったら、二割の礼金を払うのが人の道だ。
返してもらった者は、二割の礼金を払うのだろうな」

「それは……」

「コナンにだけ人の礼節を求め、自分は人の礼節を護らぬか!
人でなしの不忠者が!
それに今回の件は、その方がむりやり牧場長に据えた、ブラウンがしでかした事であろう!
その責任はどうとる心算だ!」

「何の事でございましょう。
臣にはとんと身に覚えがありませんが」

「近衛騎士団を派遣して、牧場の事、塵一つも見逃さず調べさせた。
イーハの私兵がクロウリー家の者を皆殺しにした事、明白であったわ」

「はてさて。
臣には身に覚えがございません。
証拠があるのなら御見せいただきとうございます。
それに陛下は、自ら皇都に戦乱を巻き起こす御心算ですか?」

「近衛騎士団をイーハの屋敷に派遣すれば済む事だが、オシーンの願いを無視して、皇都で戦を起こすわけにはいかぬ。
だがイーハ。
クロウリー准男爵を牧場の長に推挙した罪を償ってもらう」

「罪を償うのですか。
謹慎でもしろと申されるのですか」

「皇都から逃げた、騎獣と駄獣と輓獣の賠償をしてもらう。
クロウリー准男爵の推薦状には、ルアンとイーハの署名がしてあるのだ。
朕の反対を押し切って、コナンを除く諸王一致して決めた事だ。
それとも逃げるか?
コナンには人に道を押し付けて、自分は逃げるか?!」

「そうでございますね。
確かに、クロウリー准男爵を牧場の長に決めた者は、責任を取るべきでございます。
臣と一緒に推挙したルアン皇太子殿下。
コナン王を除く諸王。
皇国の大臣。
皆で賠償いたす事にしましょう」

「他の者どもに責任を転嫁するのか!」

「いえ、そうではございません。
臣にも責任はございますが、一緒に推挙した者にも、それに賛同した者にも応分の責任がございます。
皇国の臣下として、責任を取るべきだと思います」

「何故だ?
何故余が責任を取らねばならん!」

「イーハ!
御前とルアンの責任は特に重い。
イーハは国元に戻って謹慎しろ。
ルアンも謹慎を命ずる。
イーハの領地で静かにしていろ!」

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