第25話

「民に対する悪行、絶対に許さん」

「俺じゃねぇぇぇ。
俺はやってねぇぇぇ。
許してくれぇぇえ」

テオ・メラ―は許さなかった。
傭兵団の人間は、一人たりとも逃がす気はなかった。
オットーと共に、大公国の民を嬲り者にしたのは傭兵団員だった。
その事を忘れるテオ・メラ―ではなかった。

本当は一撃で斃すのは嫌だった。
民が苦しんだのと同じように、長い時間をかけて、苦しみ抜いての死を与えたかった。
だが逃がすわけにはいかなかった。
逃がしてしまえば、逃げた場所でまた悪行を重ねるのが分かっていた。

テオ・メラ―は、長大な刃渡りの槍を上手く使い、一振りで何人もの傭兵の首を刎ね飛ばした。
大赤甲蛇の牙と歯を、鋼鉄と軟鉄で包み込んで創り上げた、天下無双の大槍だ。
その切れ味は、テオ・メラ―が使えば、名工が心血を注いで創り上げたフルアーマープレートを紙のように切り裂くのだ。

「ひぃぃぃ。
来るな。
来るな。
止めろ！」

オットーは落馬していた。
テオ・メラ―に恐怖したオットーは、馬に鞭を入れて逃げようとした。
だが、乗馬もろくに出来ないオットーの事を、馬は馬鹿にしていたのだ。
側に馬丁がいて、手綱を持っていたから、仕方なく言う事を聞いていただけだ。

馬丁がテオ・メラ―を恐れて逃げてしまって、手綱を抑える者がいなくなっているのに、乱暴に鞭など使ったら、振り落とされて当然だった。
しかも、落馬した時に、鞭で叩かれた馬から報復を受けていた。
思いっきり後ろ脚で蹴られていたのだ。

馬に思いっきり蹴られたら、頭なら即死だ。
胸でも多発性骨折で気胸を起こし、呼吸困難で死んでしまう。
今回は運がよかったのか悪かったのか、右肩関節から右上腕にかけて粉砕骨折をしていた。
骨が粉々に砕けていたのだ。

テオ・メラ―には重傷である事が一目で分かった。
だが、念のために槍の石突で左の肩関節も突き砕いた。

「ウギャァアァアァアァ」

「他の者達は御前達が解放してやってくれ」

「はい。
騎士様」

「この腐れ外道は、大公殿下の名を騙る大罪人だ。
処罰はお前達に任せる。
責任は全て俺が取る。
好きにしろ」

「宜しいのでございますか」

「構わん。
今迄の恨み、存分に晴らすがいい」

「有難き幸せでございます」

テオ・メラ―は、オットーが抵抗出来ないようにした。
その上で、拘束されて嬲られ続けていた民の一部を開放し、皆を開放するように命じた。
同時に、オットーを処罰するようにも命じた。
民に報復の機会を与えたのだ。

そしてテオ・メラ―自身は、逃げ出した傭兵を皆殺しにすべく追撃を開始した。