第十六王子の建国記

克全

第121話ネクロマンサー

「王都騎士団が謀叛を起こしたぞ」
「王都騎士団を斃せ」
「王都騎士団は無視しろ。殿下を御逃がしするのだ」
「民が反乱を起こしたぞ」
「民を皆殺しにするのだ」
「民は操られているだけだ。襲ってくる者だけを斃し、早く殿下を御逃がしするのだ」
城門周辺は、混乱の極致となっていた。
近衛騎士隊長や近衛騎士長は、全軍を冷静にさせようと大声を出していた。
だが、魔族に憑依された王都騎士が、近衛騎士に斬り付けながら混乱を煽っていた。
自分が率先して、王都騎士団と近衛騎士団が同士討ちするように仕向けていた。
魔族に操られた傭兵や冒険者に加え、住民も次々と操られていった。
傭兵と冒険者が殺された分、住民を操るのだ。
王都の民が反乱を起こしたように見えるので、王都騎士団は民を無差別に殺し出した。
だが、操られた民の力は、王都騎士を殺すだけの力があった。
剣技で斃せる間は大丈夫だが、民に捕まえられたら力で殺されてしまう。
ここで近衛騎士と王都騎士の間にある、技量と装備の差が出た。
近衛騎士が、城門の外に出るための血路を開いたのだ。
少なくない犠牲を出したものの、王太子殿下が逃げる道を確保した。
「殿下。我らの後を御進みください」
「分かった。頼んだぞ」
王太子と生き残った側近は、近衛千騎長の先導を受けて、城門の外に出ようとした。
「グガァァァァ」
「ぐっは」
「ガラット」
近衛千騎長が、斃したはずの王都騎士隊長の剣を受けてしまった。
剣技の差があったので、ガラット近衛千騎長は、魔族に憑依された王都騎士隊長の首を刎ね飛ばしていた。
いや、一瞬憑依されてしまった王都騎士隊長は、自分の意志とは関係なく近衛騎士を斬り殺してしまっていた。
自分が行った事に呆然自失していた王都騎士隊長は、ろくに抵抗など出来ず、実力を発揮することなく、激怒したガラット近衛千騎長に首を刎ねられたのだが、その遺体がまた魔族に利用されてしまったのだ。
ネクロマンシーの技を持つ魔族が、死んだ騎士や傭兵を操り出したのだ。
憑依された人間と同じように、アンデットは生前よりも力が強くなっている。
一般的なアンデットは、素早さが失われていて緩慢な動きしかできないが、高位のネクロマンシーが使える魔族が操るアンデットは、生前に近い動きが出来た。
それでいて力が強いのだから、斃したと思っていたガラット近衛千騎長は、側面に隙を作ってしまっていたのだ。
首のない王都騎士隊長がガラット近衛千騎長を殺した事で、驚いた王太子と側近が一瞬固まってしまった。
その一瞬の隙が、王太子と側近が敵に囲まれる原因となった。
斃した敵がアンデットとなり、斃した数だけ王都の民が魔族に操られる。
憑依型の魔族は、遂に近衛騎士に憑依して、王太子と側近に斬りかかってきた。

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