第十六王子の建国記

克全

第117話死戦

「ぐがぁあ」
「ウグゥゥゥゥ」
魔族に憑依された近衛騎士隊長の攻撃は、王の実力をもっても捕らえることが出来なかった。
だが、近衛騎士団長から奪った名剣であっても、王の装備する鎧を両断する事は出来なかった。
凄まじい衝撃を与え、鎧に中の肉体を傷つける事は出来た。
その痛みが、王に呻き声をあげさせてはいた。
だが、防御魔法と回復魔法を施された鎖帷子と鎧下着が、王を完璧に護りきった。
だが魔族が憑依された近衛騎士隊長は、反射された攻撃魔法でモロに受けていた。
四肢が両断され、惨たらしい有様になっていた。
「おのれ、これで勝ったと思うなよ」
魔族は、急ぎ回復魔法を使って、近衛騎士隊長の身体を修復しようとした。
「火炎壁陣」
宮廷魔導士の一人が、胴体と四肢を分断しようと、回復したばかりの魔力を振り絞り、火炎の壁を創り出した。
万全の状態だったら別だが、四肢が両断された状態の魔族には、肉体的にはどうしようもなかった。
「今の内だ」
魔力が回復し切っていない宮廷魔導士の一人が、近衛騎士団長の剣を回収しようとした。
火炎壁陣によって分断された、近衛騎士隊長の右腕が握りしめていたが、今なら回収できると考えて、勇気を振り絞ったのだ。
「それは我のモノだ」
魔族は、回復魔法を中断して、回復中の貴重な魔力を使い、火炎壁陣の向こうに魔法の矢を創り出した。
不意に至近に出現した魔法の矢を、剣を回収しようとしていた宮廷魔導士は避けられなかった。
心臓の真上に突き刺さった魔法の矢は、宮廷魔導士を即死させた。
魔族は間髪入れず、一瞬油断し驚愕した、宮廷魔導士の隙を見逃さなかった。
魔力の振り絞り、次々と魔法の矢を創り出し、宮廷魔導士達を殺していった。
王が宮廷魔導士を下がらせる間も、間に入ってかばう間もなかった。
「おのれ、許さん」
王はこちら側に取り残された、近衛騎士隊長の右腕と右脚を剣で切り刻んだ。
これ以上近衛騎士隊長の身体が魔族に利用されないようにしたかったし、近衛騎士団長の魔剣も回収したかった。
一度は完全に防ぎ、魔族に致命的な傷を負わせたが、王の装備する鎧とは言え、完全ではないのだ。
何度も何度も憑依する相手を変え、その都度近衛騎士団長の剣で同じ場所を攻撃されたら、何時かは鎧も破壊されてしまう。
その危険を感じていたからこそ、王は情け容赦なく近衛騎士団長の右腕と右脚を完膚なきまで叩き潰したのだ。
魔族も一度は魔法の矢で王を攻撃したが、その攻撃が完璧に防がれただけでなく、倍になって近衛騎士隊長の身体に跳ね返ってきたので、攻撃を断念することになった。
火炎壁陣の持続時間が切れた時には、魔族は討伐される運命に思われた。

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