第十六王子の建国記

克全

第111話運命の対決

「やらせはせん。やらせはせん。やらせはせん。貴様ごときに。陛下を殺させはせんぞ」
「目障りです」
魔族は、憑依した近衛騎士隊長が元々持っていた筋力に、自身の魔力と魔法を上乗せする事で、三倍の速度とパワーを発揮していた。
デイヴィット筆頭魔導師が、魔族の討ち手に選んだ近衛騎士隊長は、近衛騎士団長が目障りに思うほどの実力者だった。
本来なら近衛騎士団最強は、近衛騎士団長であるはずだがだ、何事にも長幼の順というモノはある。
特に忠誠心が優先される近衛騎士団では、長年の忠勤が評価される。
近衛騎士団長も、突出した実力があるからこそ、並みの騎士団ではなく近衛騎士団に選抜されたのだ。
近衛騎士団内の競争に打ち勝ち、徐々に役職が上がったのも、単に名家の生まれだと言うだけではなく、それ相応の実績を、ダインジョン内の実戦訓練で出していたからだ。
いや、並みの王都騎士団ならともかく、近衛騎士団においては、家柄での昇進は有り得ない。
同期や先輩の騎士以上の実績を叩きだしたからこそ、騎士団長の役職を得たのだ。
そんな騎士団長を追い落とす存在として、魔族に憑依された近衛騎士隊長が頭角を現していたのだ。
元々が、近衛騎士団長よりも近衛騎士隊長の方が、実力があると思われていた。
そんな近衛騎士隊長が、魔族に憑依されて三倍の能力を得たのだ。
決死の決意をもって立ちはだかっても、圧倒的な能力差があった。
グワシャァン
ギャキィィィン
「うぎゃぁぁぁ」
「うぐぅぅぅぅう」
魔族は、近衛騎士隊長が一番得意とした、大上段からの斬り落としを放った。
近衛騎士団長は、団長の座を争って近衛騎士隊長と戦う時を想定して、近衛騎士隊長の剣技を研究していた。
それが功を奏して、普通では対応できない剣速の斬り落としに、無意識に斬り結んでいた。
だが、三倍の速さとパワーを得た斬り落としは、近衛騎士団長が受けきれるモノではなかった。
近衛騎士団長が使っていた剣が、並みの剣であったなら、剣だけではなく、鎧ごと一刀両断されていただろう。
だが、近衛騎士団長が持っていた剣は、近衛騎士団長だけが貸与される、王家が所蔵する剣の中でも五指に数えられる逸品だった。
戦いの中で破壊された近衛騎士隊長の剣なら別だったが、魔族が無造作に殺した近衛騎士から奪った並の剣では、斬り結ぶ事も難しい差があった。
圧倒的な剣速とパワーがあったからこそ、魔族が憑依している近衛騎士隊長の剣は、易々と切断されてしまった。
それくらい剣の切れ味が違っていた。
軟らかいモノが硬いモノにぶつかれば、軟らかいモノが潰れるのが道理だ。
それが剣同士であれば、軟らかい剣が折れてしまって当然だ。
だが、それだけでは済まなかった。
圧倒的なパワーの差があったのだ。

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