第十六王子の建国記

克全

第105話魔族対筆頭魔導士

「御待ち下さい、正妃殿下」
「どきなさい」
「いいえ、どきません」
「無礼者。魔導師の分際で、私に指図すると言うの」
「本当の正妃殿下か確認するまでは、ここを御通しする訳にはまいりません」
「何を訳の分からない事を言っているの」
「上手く誤魔化した心算でしょうが、正妃殿下がアンドルー王子と接触したのは確認済みです」
「だからどうだと言うのですか」
「アンドルー王子が、魔族に洗脳されている可能性も、憑依されている可能性もあるからこそ、接触を禁止してあったのです」
「それは不遜と言うモノです。私に対してそのような事を申した以上、魔導師の地位は剥奪です。そこをどきなさい」
「それはできません。正妃殿下をここで御返すように申されたのは、国王陛下の勅命でございます」
「それは御前が妄言を耳に入れたからでしょう。そなたのような佞臣の妄言を入れた勅命など無効です」
「正妃殿下とは申せ、国王陛下を貶める事を口にすれば、それは謀叛と言えます。ここは自室に御戻りになり、アンドルー王子共々、身体検査を受けて頂くべきでしょう」
「もう許しません。そなたは解任です。御前達、この乱心者を捕まえなさい」
正妃殿下が怒りに震えながら命じたが、魔導師と一緒に警護に当たっていた近衛兵は、誰一人正妃殿下の命令に従わなかった。
国王陛下から事前に厳命されていたこともあるが、アレクサンダー王子とベン大将軍の活躍で、正妃殿下の一派が著しく力を落としていたことも影響している。
何より筆頭魔導師が、近衛兵を含めた全ての王都騎士団員に、魔族に洗脳されたり憑依されたりする危険性を、厳重に注意していたことが大きい。
「え~い、何をしているのです。早く捕まえなければ、御前達もただでは済みませんよ」
「正妃殿下。これ以上騒がれるようでしたら、力ずくで自室に御戻り頂くことになりますが、それでも宜しいのですか」
「ふ、ふ、ふ、ふ。イーゼム王国やエステ王国と違って、アリステラ王国は護りが堅いですね」
「ようやく正体を現したか」
「ふ、ふ、ふ、ふ。だからどうだと言うのです」
「これでも喰らえ」
筆頭魔導師のデイヴィット・ヨークは、事前に練り上げた玉鋼級の火炎魔法を、情け容赦なく正妃殿下の姿をした魔族に叩きつけた。
「ふ、ふ、ふ、ふ。この程度の魔法で、私をどうにかできると思っているのですか」
「そんな事は思っていないが、それでも思っていた以上に頑丈だな」
「頑丈なだけではありませんよ」

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