第十六王子の建国記

克全

第103話ベン魔境伯・大将軍

「大将軍閣下、砦の改修が終わりました」
「よくやった。近隣の砦と連動して、国境の警戒を厳重にしてくれ」
「了解いたしました」
エステ王国方面では、ベン大将軍の指揮の下で、日当を支払って領民の動員をしていた。
最前線の戦力を増やすために、後方の輸送や城砦の改修に、領民の力を借りたのだ。
普通の貴族や騎士団長なら、労役として無償で領民を働かせるのだが、ベン大将軍は、現物支給だが報酬を支払った。
ベン大将軍が支払う報酬は、魔境で狩った魔物や魔蟲だった。
貴重な蛋白源である魔獣や魔蟲は、貧しい領民には貴重な食糧だった。
豊かな領民も、家畜を使って物資運搬に協力する事で、換金性の高い魔獣と魔蟲の素材を手に入れられるので、率先して協力するようになった。
ベン大将軍配下の軍でも、騎士が直接荷物の運搬に携わると、襲撃を受けた時に迎撃できる戦力が限られることになる。
領民が荷物を運んでくれれば、全戦力を迎撃に振り向けることが出来る。
それは城砦の改修も同じで、騎士団員が改修作業に従事してしまうと、奇襲を受けた時に剣ではなく煉瓦や木材を持っていることになる。
鎧ではなく作業着を着ていたら、魔族の襲撃を受けた場合は、初撃で騎士団が全滅してしまう可能性すらある。
だからこそベン大将軍は、国王陛下に強く陳情して、アレクサンダー王子がアゼス魔境で狩った魔獣と魔蟲を無税扱いにしてもらい、領民の報酬に転用したのだ。
ボニオン公爵に封じられアレクサンダー王子の影響力は、ベン大将軍の側面支援もあり、飛躍的に増大していた。
未だに王都には、下劣な大貴族が数多くいた。
表立っていた大貴族は排除されたが、姑息に立ち回っていた、狡猾な者が残っているのだ。
そんな者達は、当然密偵を放って情報収集に余念がなかった。
今はまだ、王妃殿下の一派が力を持ってはいるが、その力が急激に低下しているのを理解していた。
同時にアレクサンダー王子一派が急激に力を付けているのも理解していた。
保身に長けた彼らは、当面はアレクサンダー王子一派と争わないことにした。
密偵と王都騎士団員からの報告で、魔族がアレクサンダー王子とベン大将軍だけしか対応できない事を知ったからだ。
王や王太子が、王国の秘宝を装備しても、魔族を撃退出来る確証はない。
エステ王国やイーゼム王国も、それなりの秘宝は持っていたはずだ。
それが全く役に立たず、易々と魔族に国の主導権を奪われたのだから、王と王太子に頼り過ぎるわけにはいかなかった。
そんな状況だったから、ベン大将軍は出征前と打って変わって、楽に献策を認めさせることが出来た。

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