第十六王子の建国記

克全

第100話王の苦しみ

「捕虜を解放されるのですか」
「ああ、身代金を払える貴族や金持ちからは、その身分と財産に応じて身代金をとる」
アレクサンダー王子は、ベン大将軍の支援に向かう前に、ネッツェ王国領とボニオン公爵領の統治方針を、責任者の家臣達に指示していた。
「金のない職業軍人や下級兵士はどういたしましょう」
「彼らには、ボニオン公爵領で労役をさせて、身代金代わりする」
「殿下、宜しいですか」
「なんだい、ロジャー」
「イブラヒム王家への魅了と洗脳を、殿下がかけ直されるべきです」
「ロジャー。俺が信用できないと言うのか」
「そうではない、マーティン。信用するしない以前の問題として、一国を動かす人間を、殿下以外の者が命令出来る状態はおかしいのだ」
「それは」
「マーティンが殿下への忠誠心で、イブラヒム王家を支配下に置いたのは承知しているが、それは不遜な事だ」
「不遜と言われたら反論出来ないが、それもこれも殿下の事を思っての事だ」
「殿下の事を、家臣の分際で勝手に思って、殿下の望まぬ事を、殿下にやらせようと言うのは、殿下を操って自分のやりたいことをやっているに過ぎない」
「好き勝手言ってくれるな」
「だがそれが真実だ。家臣の身で、主君にこうあってもらいたいと勝手に願い、主君の理想を捻じ曲げるなど、奸臣でしかない」
「それが、万民の為でもか」
「それが万人の為になるかならないかは、主君が決められることだ。百歩譲って、主君が悪逆の王ならば、剣を取って誅する事もあるだろうが、殿下に関して言えば、我らの理想より、殿下の理想の方が遥かに気高く尊い」
「それは・・・・・分かっている」
「ならば、殿下の命よりも我らの命を優先する傀儡は、絶対にいてはならない」
「そうか、そうだな。俺が間違っていたよ」
「では、殿下。イブラヒム王家の者に、改めて魅了魔法をかけて下さい」
「分かった」
アレクサンダー王子は、マーティンが一度魅了魔法で支配下に置いた、イブラヒム王家の者全員に魔法を上掛けした。
これでネッツェ王国は、アレクサンダー王子の意のままになる。
だが同時に、ネッツェ王国の民の生命財産を守る義務が生じた。
アレクサンダー王子には、肩にズシリと大きなモノがのしかかってきた感触がした。
他人には、王侯貴族の地位が羨ましいモノに見えるのだろうが、責任感の有る者には、割に合わない苦行でしかない。
王子に生まれ、幼い頃から貴族の責任を叩き込まれたアレクサンダー王子は、今迄は何の疑問もなく責任を背負い、民を助けてきた。
だが苦境に立った大国を背負う立場となって、王の苦しみを実感出来るようになった。

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