第十六王子の建国記

克全

第82話大魔法

アリステラ王国軍が散開を開始して直ぐに、エステ王国軍の陣から急激に魔力が感じられた。
密集隊形のアリステラ王国軍に、大規模攻撃魔法を放とうとしていたエステ王国軍が、アリステラ王国軍が散開を完了する前に、大規模攻撃魔法を放とうしているのだ。
だがベン大将軍がそれを見過ごしたりはしなかった。
即座に放てる最強の火炎魔法を、百に分けて広範囲に放ったのだ!
だが即座に対応したのはベン大将軍だけではなかった。
常にドラゴン魔境騎士団と比較され、散々馬鹿にされてきた王都騎士団であったが、決して他国の騎士団に劣る存在ではない。
いや、むしろ圧倒する実力だと言っていい。
大貴族や重臣の不正や縁故はあったものの、王家王国が明確な基準を設けて指導し、下級士族や卒族に立身出世の機会を与えていたのだ。
当主や世継ぎはここで実力を養い家計の足しにしていた。
次男以降の部屋住みは、ドラゴン魔境騎士団への入団を目指して死に物狂いで鍛錬に励んでいたのだ。
少なくとも魔境やダンジョンで生活費を稼ぐ冒険者として、独立できるように頑張っていたのだ。
そんな王都騎士団だったから、ダン大将軍が邪魔者を皆殺しにした後は、他国の騎士団に比べれば、恐ろしく戦闘力の高い騎士団に生まれ変わっていた。
百騎の部隊に別れた四百の騎士隊から、ダイ大将軍の攻撃に呼応するように、数多くの魔法が放たれた。
その数は他国の騎士団では考えられないほどの多く、魔法使いだけで編成された魔法師団に近い規模だった。
最初のダイ大将軍の攻撃は、全て無効にされた。
一撃で竜を斃すほどの魔力を、百に分けて広範囲に叩きつけたのだ。
それだけの広範囲に、即座に強力な魔法防御を張る事など、普通は不可能なのだ。
百カ所の攻撃カ所にだけ、臨機応変に魔法防御を張ることも極めて難しい。
だがエステ王国軍はそれを成し遂げた!
そして次に殺到した、四百の騎士団から放たれた八千前後の攻撃魔法だが、全てが防がれたりしなかった。
比較的強力な魔法と、ある一定地域だけが防がれた。
この二撃の魔法を防ぐエステ王国軍を確認したベン大将軍は、即座に次の攻撃に移った。
実戦経験の豊富なベン大将軍は、強力な魔法を錬るために時間をかけるよりは、即座に攻撃する方がいいと判断した。
現にエステ王国軍陣内に発生していた、恐ろしく強力な魔力がなくなっている。
攻撃は最大の防御と判断し、今度はエステ王国軍が護ろうとした地域に向けて、竜を斃せるほどの魔力を一撃に収束して放った。
その必殺の一撃に対して、エステ王国軍も強力な魔法防御を行った。
やはりエステ王国軍の急所なのだろう。
即座に激しい閃光と轟音が辺り一面に広がり、アリステラ王国軍とエステ王国軍将兵の視力と聴力を奪った。
ここでも王都魔境で鍛え上げた王都騎士団の真価が発揮された。
ベン大将軍の攻撃とエステ王国軍の魔法防御が拮抗するのに応じて、独自に判断して魔法攻撃を放つとともに、騎馬突撃を行ったのだ。
閃光と轟音に怯む軍馬を宥められた隊だけだが、隊士の中に調教や魅了の魔法が使える者がいる百騎隊は、大混乱に陥るエステ王国軍を攻撃する好機と考えたのだ。
わずか十二の百騎隊ではあるが、エステ王国軍を切り裂いていった。

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