第十六王子の建国記

克全

第70話睨み合い

「なかなか動きませんな」
「これ以上手駒を魅了されたくないのだろうな」
「かといって何もしないわけには行きませんし、ネッツェ王国も辛い所でしょうな」
「そうだろうな。爺ならこの状態でどう動く」
「殿下を暗殺しようとします」
「やはりその手で来るのかな?」
「使者を送ろうと大軍を送ろうと、魅了の魔法で殿下に捕り込まれる恐れがありますから、一定の距離を置いて防衛軍を配置するしかありますまい」
「余が前線に出ればどうするのだろうな。一気に攻めかかって来るのか、それとも陣を引くのだろうか?」
「ケンジー王の性格次第でしょう。いえ、指示次第ですね」
「ケンジー王が攻撃的で、積極的に攻めろと命じていれば、余の首を狙って襲い掛かって来ると言う事だな」
「はい。しかしながら弱気で受け身の性格だったら、方針と責任を防衛軍の指揮官に押し付けることでしょう」
「ケンジー王とその側近の能力と性格はもちろん、防衛軍指揮官のガマール首長とその側近の能力と性格も調べなければならないな」
「はい。その上であらゆる可能性を考慮し、その全てに対応できるように準備しなければなりません」
「そうだな。全てに対応できるようにしておかねばならないな」
余は爺と共に最前線に陣取り、ネッツェ王国の反攻に備えている。
ネッツェ王国軍が反攻してきた場合、余の魅了魔法で取り込んだ人々が犠牲になる可能性が高い。
そんな事になったら、余の良心が疼くことになる。
余が最前線に陣取っていれば、戦闘ではなく交渉で話がまとまる可能性があると考えたのだが。
魅了の魔法を恐れて余の陣には使者を送ってこなかった。
だが長期対陣をするとなると、余と少数の側近だけで占領した全ての村や町を防衛するのは難しい。
余の首だけを狙って大軍を動かしてくれればいいが、多数の部隊に分けて同時反攻してきた場合、全てを撃退する事に失敗する可能性が高い。
そこで多少良心が痛むのだが、捕虜にしたネッツェ王国軍五万騎を防衛軍として活用することにした。
そう、ネッツェ王国の第二王子が率いていた五万騎だ。
もちろん人質としての価値が高く、多額の身代金が見込める貴族や将軍は騎士団城に拘束している。
騎士の機動力を活用する為に、四万騎は兵糧などの物資輸送に従事させている。
残る一万騎は馬から降ろし、村や町の籠城兵力とした。
一万馬の軍馬をどうしたかと言えば、創設するボニオン騎士団用の軍馬として後方に確保してある。
問題はどう軍費を抑えて兵糧を確保するかだが、ボニオン騎士団の騎士候補冒険者をボニオン魔境に送り込み、魔獣や魔蟲の確保を行った。
「殿下、急使が参りました」
「陛下からか?」
「はい。アンドルー王子がイーゼム王国相手に大勝されたそうでございます」
「会おう。ここに連れてきてくれ」
「はい」

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