第十六王子の建国記

克全

第53話王手2

「なんて下劣な連中だ!」
「これで我々が操っていることが明白になってしまいました」
「仕方がない。何の罪もない民を殺すわけにはいかん」
「は」
余と爺は、ビッグベアを操ってボニオン公爵の居城に向かったのだが、公爵家は下劣で強かだった。
何と公爵家は、城下の住民を盾に使ったのだ。
公爵家にも浅知恵くらいは回る者がいたのだろう。
余と爺の襲撃で、民が全く巻き込まれていない事を知り、民を盾に使う事を思いついたのだろう。
だがこれは一つの重大な事実を含んでいる。
魔獣が襲う人間を選んでいるという事だ。
つまり誰かが魔獣を操っているという事で、自然に魔獣が魔境から溢れたわけではないという事でもある。
結果として公爵家の魔境管理不十分の罪が軽くなることになる。
しかも余が係わっていることを絶対に悟られるわけにはいかない。
この事実が露見したら、王家王国が公爵家に罠を仕掛けたと言う印象を与えてしまう。
だから隠形の魔法を強化することにした。
つまり襲撃は続けるという事だ。
民を防御魔法の応用で進路から移動させ、ビッグベアをボニオン公爵の居城に進めた。
だが多くの民を避けながらの移動は、ビッグベアの行動を遅く単調にさせた。
民を怪我させないように移動させるのは、魔法を使っても細心の注意が必要だったので、どうしてもビッグベアの動きを制限してしまう。
ここをボニオン公爵家騎士団に狙われてしまった。
遠方から雨霰と矢を射掛けられたのだ!
空を圧するほどの矢が降ってきた。
周りにいる民の事など全く考慮せず、殺しても構わないという攻撃だ。
これが更に余と爺の行動を制限した。
新たな防御魔法を展開して、民を護らなければいけなくなった。
だがまあ何だ。
ボニオン公爵家騎士団が射るような、勢いのないへなちょこの矢が、白銀級魔獣のビッグベアを傷つける事など出来ない。
だがボニオン公爵家騎士団は、余や爺が考えている以上に下劣だった。
事もあろうに、矢に猛毒を塗っていたのだ!
だがどれほど猛毒であろうと、人間が扱える程度の毒で、白銀級魔獣を殺すことなど出来ない。
だが周りにいる人間は別だ。
僅かな傷がついても、そこから毒が入って悶え苦しんで死ぬことになる。
「敵もやりますな」
余の堪忍袋が音を立てて切れそうになった時に、爺が声をかけてくれた。
「なんだと」
「敵国が侵攻した場合は、これくらいの事は当たり前でございます」
「なるほど。目の前にいるのは、ボニオン公爵家騎士団に偽装したネッツェ王国軍だというのだな」
「そうです。そうでなければ、今迄の民を巻き込んだ戦い方や、女子供を拉致乱暴した理由が説明できません」
「そうだな。栄光あるアリステラ王国の騎士が。それが例え公爵家の陪臣騎士であろうと、婦女子を拉致乱暴するなど有り得ないな」
「はい。ネッツェ王国の侵略軍が相手なら、何の遠慮もいりません」
「では、全力で行くとするか」
「はい。殿下」

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