第十六王子の建国記

克全

第23話女冒険者

「回復」
「麻痺」
「睡眠」
救援に向かった余達の眼に入ったのは、三人の女冒険者が白金級のブラッディベアーと戦っているところだった。
百九十センチメートル前後の女にしては大柄な黒人族の戦士が、美しく編み込んだ黒髪をわずかにたなびかせ、強力なブラッディベアーの爪撃をハルバートで防いでいた。
致命的な一撃は防いでいるものの、ブラッディベアーの強力な爪撃は味方の防御魔法でも防ぎきれず、味方の回復魔法も尽きたのだろう、全身の至る所から血を流していた。
黒人戦士よりは小柄だが、それでも女性にしては大柄の百七十五センチ前後の神官戦士が、美しい銀髪を振り乱した状態で、魔境の地に倒れ伏していた。
もう一人の冒険者は百六十センチメートルくらいの魔法使いで、恐らく魔力が尽きるまで黒人戦士に支援魔法をかけ続けたのだろう。
昏倒しそうな身体を杖で支えながら、それでも必死で支援魔法を唱えようとしている。
余がかけた白金級の回復魔法で完全に戦える状態になったのだろう、女戦士が力強くハルバートを振るう。
爺がブラッディベアーにかけた白金級の麻痺魔法が効果を表しているのだろう、ブラッディベアーが動きを止めた。
パトリックがブラッディベアーにかけた金級の睡眠魔法も効果があったようで、ブラッディベアーは両眼を瞑りガクリとその場に倒れ込んだ。
ブラッディベアーがその力を縦横無尽に振るったのだろう、人間が五人がかりでやっと周囲を測れるほどの太さの大木が、何十本もへし折られて散乱している。
これほどの剛力を誇るブラッディベアーの爪撃を、魔法使いと神官戦士の支援を受けながらとは言え、一人で受けきった女戦士は素晴らしい戦闘力だ。
「大丈夫か?」
今回はパトリックが声をかけてくれた。
ロジャーに話すのを禁止しているし、マーティンもいないから、次に身分と役職が低いのはパトリックになってしまう。
「あんたたちが助けてくれたのか」
「魔法で支援したのが俺達なのかと聞いているならその通りだ」
「礼はどうすればいい」
「急だったのでな、礼の事など何も考えていなかったよ」
「命の恩は命で返すのが冒険者の古い流儀だが、それを要求するか?」
「そこまでしてもらおうとは思わんよ。だが気になるのなら、俺達がいいと言うまでは魔境に留まってもらいたい」
「それは身体を要求しているのか」
「いやいや、そんな下種な要求などしない。正直に話すと公爵家に追われているので、俺達がここにいるのを冒険者ギルドにも公爵領の人間にも話されると困るのだ」
「二人ともそんな話の前に、麻痺させているブラッディベアーを何とかしてよ。目を覚ましたらどうするの?!」
「大丈夫だ。この人達なら一撃で屠ってしまうだろう」
「そんな! 白金級のブラッディベアーだよ?!」
「多分ドリスの言う通りだよ、ベネデッタ」
「どう言う事なの、アデライデ」
「あれほど疲れていた私達が一度の回復魔法で全快したのよ、その回復魔法のレベルがどれくらい高いのかは、神官戦士のベネデッタが一番分かっているはずよ」
「あ! そうね、そうだわ、まだ私冷静じゃないみたいね」
「麻痺魔法も睡眠魔法も、ブラッディベアーに一度で効果与えているわ」
「そうか! 少なくともブラッディベアーと同じ白金級以上の魔法なのね」
「そうよ。四人の内三人以上が白金級を超える魔法が使えるのよ。例えブラッディベアーが動き出しても、直ぐに倒してしまうわ」
「さて、話の続きをしてもいいかな」
「ああ、あんた達が公爵家に追われているという話だったな」
「そうだ。俺達は公爵家の暴政に反抗したので、公爵の逆鱗に触れたのだ」
「確かに公爵家は領民には圧政を敷いているが、腕の立つ戦士や冒険者を優遇しているが、あんた達ほどの腕があれば特別待遇をされていたのではないか?」
「俺達はそんな下種な人間ではない。自分達が優遇される陰で、虐げられた民が怨嗟の声を上げるいるのなら、そのような優遇を受けるなど恥だ。そう言ったら殺そうとしたので、逆にぶちのめしてこの魔境に逃げてきたのだ」
「おかしいな。あんた達ほどの腕があれば、この魔境に逃げ込まなくても、簡単に公爵領を出ていけたんじゃないのか」
「その通りだ。だがそれでは公爵領の民がいつまでも救われない」
「公爵領の民を助ける心算か?」
「ああ、俺達の力の及ぶ限り、公爵家に立ち向かう」
「公爵家の戦闘力は小国に匹敵するのだぞ、それでも戦って民を救うと言うのか」
「相手がどこの誰であろうと、民を虐げる者は許さない」
「四人で戦おうと言うのか」
「それは言えない」
「他にも仲間がいるのだな」
「何も言えない」
「ここまで秘密を話した以上、私達を逃がす気はないと言う事だな」
「ああ、申し訳ないが、命の恩人に渡す代価は、公爵家を懲らしめるまでの拘束だと思ってくれ」
「分かった。命の恩は命で返せと言われても仕方がない所だから、それくらいなら安いものだろう」
「「ドリス!」」
「だが一つ教えて欲しい」
「なんだ」
「どれくらいの期間になりそうだ」
「正直何とも言えないのだが、一ヶ月で公爵家を懲らしめたいと思っている」
「随分と自信満々だが、本気なのか」
「本気だ」
「だったらそれを証明してくれないか」
「どう証明しろと言うのだ」
「そこに転がっているブラッディベアーを殺してみてくれ」
「魔法で麻痺し眠っているブラッディベアーを倒したところで、何の証明にもならないと思うが?」
「魔法の力は見せてもらったが、剣の腕前は見せてもらっていない。装備を見れば、剣が主な武器のようだから見ておきたいのだ」
「分かった、御見せしよう」
どうしたんだ?
爺が横から口を挟むなんて。
「アーサー殿、剣の腕を披露して差し上げなさい」
「私が?」
「そうだ。彼女から見れば、アーサー殿が一番若造に見えるからな」
「そう言う事なら仕方ないですね」
やれやれ。
人の見ている前で剣技を披露するのは結構緊張するんだよ。
だがそれくらいの事で、彼女達が素直に魔境の中で大人しくしてくれるなら、余達も強引な方法を使わなくて済むから、お互い嫌な思いをしなくて済む。
気合を入れず。
緊張することなく。
抜く手も見せず。
流れるような動きで。
ブラッディベアーの首を斬り落とす。
銀級程度の攻撃なら簡単に弾き返す剛毛も。
金級程度の攻撃なら全く受け付けない硬皮も。
白金級程度の打撃力な柔らかく受け流す脂肪層も。
白銀級の攻撃力なら受け止める剛筋も。
全て何の抵抗も出来ずに余の剣を受けた。
滑らかにブラッディベアーの首が魔境の地に落ちる。
「「「な?!」」」
三人とも驚いているな。
「これいいかな?」
「アーサー殿と言われたな」
「はい」
「私から言い出した事だが、これほどまでの剣技を御持ちとは思わなかった」
「そうですか。ですが剣技に関しては、我ら四人同程度の腕前ですよ」
「「な?!」」
二人はもう一度驚かすことが出来たが、ドリスとやらは驚いていないようだな。
「それはそうだろうよ。他にも仲間はいるようだが、少人数で公爵家と戦おうと言うんだ。白金級くらいの魔獣を倒すのは簡単な事だろうさ。だからベネデッタとアデライデは、おかしなことを考えずにこの魔境でゆっくりするんだよ」
「ドリスもそれでいいのかい?」
「命の恩だからね」
「やれやれ、相変わらず古風だね」
あれ?
これは不味いかな?
「ちょっと強力な奴が近付いてきたようですな」
「ボスだと思うか?」
「ボニオン魔境にはボス級が数頭いたはずです」
「そのうちの一頭と言う事だね」
「何の話をしているんだ?!」
「ボス級が俺達を狙ってきたと言う事だよ」
「「「なんだって?!」」」
「御前達はここで待っておれ」
爺がやる気を出した!
昔取った杵柄ではないが、ボス殺しと言われた爺の腕が疼くのかもしれない。
だが余も爺の影に隠れている心算はない。
ボスが複数いるボニオン魔境なら、ボスを一頭仕留めても魔獣が暴走する恐れはない。
だったら腕試しにぜひ戦ってみたい。
自分がボス相手にどれくらい戦えるのか試したい。
例え相手が爺であっても、後に引くわけにはいかない!


ドリス:黒人族の金級女戦士・左腕を失い・左脚も麻痺していたのを主人公に治療して貰う。
:黒髪190cm前後の野性味あふれるナイスバディーの美女。
ベネデッタ:ドリスのパーティー仲間・金級治癒術を使える神官戦士
:銀髪175cm前後のナイスバディーの美女
アデライデ:ドリスのパーティー仲間・金級魔法を使える魔法使い。
:金髪160cm前後中肉中背

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