前世水乙女の公爵令嬢は婚約破棄を宣言されました。

克全

第61話

「妾の相手を務めてもらうよ」

「嫌だと言ったらどうする」

「力づくでも相手してもらう」

火竜シャーロットが王城を出てサライダオアシスまで出向いて来た。
安全にアシュラム達を確保するには、今が限界だと思ったのだ。
ただ単にアシュラム達を殺すだけなら、いつでも簡単に出来る。
だが交尾相手に殺すことなく確保するとなると、今動かなければならないと、本能が告げていたのだ。

一方アシュラム達は、それぞれの守護精霊の影響を受けていた。
水精霊にとっては、火竜は天敵だ。
アシュラム達と交尾する事で、火竜が強力になる事は我慢ならなかった。
今の火竜とならば共存出来ても、これ以上強くなると難しかった。
だから敵対することになってしまった。
共存を考えていたのに、哀しい事だった。

「嫌だな。
単に火竜が増えるになら文句は言わん。
だがドラゴニュートを困るのだ。
人と竜の力を併せ持ったドラゴニュートは、この世界の理を壊すかもしれない」

「へぇ。
そこまでは考えていなかったわ。
そうなの。
この世界を変えるほどの力が、私の子供達にあるのね。
だったらなおさら貴方達の種が必要ね」

激烈な戦いとなった。
身体強化を繰り返した上に、水精霊の加護を受けたアシュラム達は、火竜の予測を越えた強さだった。
だがそれでも、火竜を殺す事など出来なかった。
しかし火竜に拉致される事はなかった。

アシュラム達は死力を尽くしたが、火竜を斃す事も撃退する事も出来なかった。
仕方なく水精霊は、火竜との共存を完全に諦めた。
王城とサライダオアシスとの間に、強力な水の結界を築くことにした。
火竜は勿論、人の性質を併せ持つドラゴニュートでも渡る事が出来ない、強固な水結界だった。

だがそれを築くに、まだアシュラム達の力が足らなかった。
そこでアシュラムは最後の切り札を使う事にした。
本当は使いたくなかったが、背に腹は代えられなかった。
使えば人にも悪影響がでる可能性があった。
天罰が下る可能性があったのだ。

「水龍様。
どうか御力を御貸しください。
人と火竜を分かつ結界に御協力ください。
人と火竜が共存出来る道を御示しください」

そうなのだ。
アシュラムを守護する水精霊の住んでいた大河には、水龍様の一部が遊びに来ていたのだ。
そこでアシュラムは、水龍様の加護も受けていた。
だがそれは諸刃の剣だった。
水龍様は公平過ぎるのだ。

火竜にも人にも精霊にも公平なのだ。
加護を与えたアシュラム個人には優しい所もあるが、だからと言って人種に対して依怙贔屓しないのだ。
それがアシュラムの考えを大幅に超える結果を産み出した。

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