前世水乙女の公爵令嬢は婚約破棄を宣言されました。

克全

第36話

「御嬢様を助けろ」

戦闘侍女頭が、叫ぶとともにオアシスに飛び込もうとした。
だがその前に、精霊がカチュアを救い上げた。
そうなのだ。
水精霊がカチュアを水死させるはずがないのだ。
戦闘侍女も警護の騎士も、その場にへたり込んだ。
普段ではとても考えられないが、腰が抜けてしまったのだ。

「何をしている!
気を抜くな!
水精霊様から御嬢様を御受け取りするのだ」

戦闘侍女頭の叱咤を受けて、皆気合が入った。
一旦その場で直立不動となり、直ぐにキビキビと動き出した。
戦闘侍女達は御嬢様を水精霊様から受け取り、濡れた身体を乾かそうとした。
護衛達は、警護に一分の隙もないようにした。

「急いで館に帰ります。
布陣を整えなさい。
侍女達は御嬢様の体温が下がらないように、交代で抱きしめなさい」

戦闘侍女頭の指示を受けて、急いで館に帰還した。
帰る途中でカチュアは意識を取り戻したが、皆喜ぶだけだった。
だが館に帰ると、両親に泣いて取り縋られてしまった。
先触れが全てを報告しており、公爵も公爵夫人も、号泣してしまっていた。
カチュアは必至で謝った。

両親には謝るだけでよかったが、城代からは厳しく叱られてしまった。
この国の命運を握っているのに、軽率甚だしいと大目玉を喰った。
自分の見込みも話した。
精霊が残った民を助けてくれるとも言った。
更に厳しく諫言された。

両親を残して身を捧げるなど、不孝の極みだ。
そう長い長い説教を受けることになった。
カチュアは辟易したが、同時に自分が本当に愛されていると思った。
皆が落ち着いてから、水龍様の話を伝えた。
最初は火竜の事に納得出来ない者も多かった。

だが王太子達の悪行を思えば、水龍様の助力が得られないのも仕方がない。
皆そう思い至った。
仕方なく、共存の道を選んだ。
サライダ公爵領の民ばかりではなく、王都内に生きている者達全てに伝えた。

水龍様からの御告げは、すんなりと受け止められた。
既に、王族と貴族士族の悪行に、水精霊様が御怒りになったと思っていたのだ。
王族と貴族士族の悪行で、水龍様から見捨てられるのも当然だと思った。
だから悔い改めた。

いや、最初から水精霊様を敬っていた者だけが生き残っていた。
彼らが昼夜を問わず祈りを捧げた。
直ぐに王都中央にあるオアシスに水が戻ってきた。
十日ほどでオアシスの水は元通りになった。
地下用水路にも水が戻ってきた。

急いで醸造酒を造り始めた。
酒と言う酒がなくなっていたのだ。
火竜の子と共存するには、急ぐ必要があった。
急ぐために、比較的早く作れる乳酒を急いで作った。
馬・山羊・羊などの乳を搾り、発酵させて乳酒とした。

水精霊の加護と貢物の効果で、地下用水路から化物が現れることがなくなった。
王城には火竜とその子が住み、王都には人が住む棲み分けが行われた。
新たに人が攫われたり喰われたりする事はなくなった。
だが王城内には、王太子やメイヤー公爵のようなモノが飼われていた。
火竜の子の餌として。
生きたまま身体を喰われる、永劫の地獄に落とされた。

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