前世水乙女の公爵令嬢は婚約破棄を宣言されました。

克全

第32話

シャーロットは母性の強い竜だった。
子供が欲しかった。
生物としての本能に突き動かされて、同種の雄を探した。
いなかった。
どれほど探してもいなかった。

火竜であるシャーロットには、行動に限界があった。
海や湖の中には入れなかった。
余りにも寒いところには行けなかった。
だから空も低い所までしか飛べなかった。
出来るなら、火山や熱砂に留まりたかった。

だが子供が欲しくて、色々と探し回った。
何処にもいなかった。
住処を広げれば、雄がやって来るかもしれないと考えた。
だから砂漠を広げた。
だが、神や精霊が邪魔をした。

殺されたり酷く傷つけられたりはしなかった。
だが、住処は狭いままだった。
水精霊が憎かった。
殺してしまいたかった。
だが、水精霊には神が付いている。
正面から戦うと、神が水精霊の味方をしてしまう。

そこで自滅させることにした。
水精霊がこの乾いた地で存在するには、人の願い祈りが必要不可欠だ。
だが人間は卑しく汚い。
必ず水精霊への感謝を忘れる。
待てば時は訪れる。
だが火竜は待てなかった。

竜であろうと永遠に生きられるわけではない。
子を産むのは早ければ早いほどいい。
だから人間の欲望を刺激する事にした。
人間は簡単に慈愛と仁義を忘れ、悪辣外道な行いを始めた。
砂漠と荒野を広げる事が可能になった。
子を産む環境を広く快適に出来る。

だが同種の竜がいない。
同種の竜がいない以上、他種との混血でも仕方がない。
種が近ければいいのだが、そのようなモノもいない。
竜から見れば、砂漠に住む多くの種は弱く愚かだ。
とても交尾にしたいモノではない。

どうしても、仕方なく交尾にするなら、人間を選ぶしかなかった。
人間以外の種は、弱い上に頭まで悪い。
人間は下劣な生き物だが、その分知恵がある。
人間を交尾相手に選べば、子供は情けないほど弱い生き物になるだろう。
だがそれでも、弱くて知恵のない子よりは、弱くても知恵のある子の方がいい。

ともかく一度試してみた。
やはり、哀しいくらい弱い子だった。
だがそれでも可愛かった。
初めての子は、とてもかわいかった。
だが、熱砂で生きていくには弱すぎた。
どうしてもある程度の肉と水が必要だった。

だから人間の国を利用する事にした。
水精霊を利用する事にした。
だがやり過ぎてしまった。
加減を誤ってしまった。
火竜は気性が荒すぎたのだ。

だが予想以上に水乙女が頑張ってくれた。
彼女の御陰で、王国は滅びず、適度に水が残った。
人間も生き残った。
残った人間を餌にすれば、子供達を育てることが出来る。
いや、この国を訪れる人間を餌にする事が出来る。

だから交尾相手を変える事にした。

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