前世水乙女の公爵令嬢は婚約破棄を宣言されました。

克全

第29話

気の荒い者達が、欲望半分で王城や貴族の館を襲っている時に、気の優しい者や力ない者は、サライダ公爵家の城外農園の前で叩頭していた。
ただただ頭を地に擦り付け、精霊様に許しを乞うていた。

彼ら彼女らは、既に精霊様の慈悲を受けていた。
聖なる小川から水の恵みを受けて生き延びていたのだ。
そんな彼ら彼女らは、王都内の戦いに恐れおののき、精霊様に再びの慈悲を乞うていたのだ。

一時間二時間と、ひたすら慈悲を乞うていると、彼ら彼女らを誘うように小川の水が引いていき、道のようなモノが出来上がった。
先に王太子直轄領やメイヤー公爵領の奴隷や貧民の前に現れたのと同じ、聖なる慈悲の道だった。
彼ら彼女ら、誘われるようにその道に向かってった。

王都内王城内で凄惨な殺し合いや略奪が横行している時に、サライダ公爵家の城外農園では、再び奇跡が起こっていた。
彼ら彼女らを温かく迎えたのは、先の奇跡で助けられた奴隷や貧民だった。
彼ら彼女らにも、甘く完熟した食べ頃の新鮮なデーツが、カチュア公女から与えられた。

そのような慈悲が施されている頃、ゴライダ王家の者達が、遂に城を捨てて逃げ出した。
ラクダに乗せられるだけの酒と金銀財宝を積み上げて、東の大国に亡命しようとしていた。
その中には、第二王子以下の全ての王子がいた。
だが、現国王はいなかった。

病床に伏している王は邪魔だと、だれも連れて逃げようとしなかった。
宰相だけは共に王宮に残ったものの、王妃をはじめとする愛妾達も、全て後宮から逃げ出そうとしていた。
孝行も忠誠も愛情もない、人の悪しき所だけが現れる地獄絵図であった。

逃げ出そうとする者達は、民が攻めてくる王都方面に行くことは出来なかった。
彼らも、サライダ公爵領・オアシス・王都から離れる方向、攻撃が行われていない、火竜の砂漠方向にある城門から逃げ出そうとしていた。
そちらに地獄があるとも知らずに。

逃げ出そうとする騎士や徒士の中には、狂気に囚われて後宮から逃げ出した女官を襲い犯す者までいた。
襲われる者の中には、王の愛妾であった者さえいたが、狂気に囚われた者に見境などなかった。

だがそんな者は少数で、多くの者はラクダと酒を奪い合っていた。
少しでも多くの財宝を手にして逃げようと、元の同僚や上司部下が、醜く殺し合っていた。
一致団結して、直ぐに一緒に逃げていれば、民に追い付かれることなく、王城から逃げ出せただろうに。

醜く争った結果、民に追い付かれてしまい、ラクダも金銀財宝も奪われ、叩き伏せられて地下用水路の前に縛り上げられた。
後宮から逃げ出した女子供も、同じように地下用水路の前に縛り上げられた。

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