前世水乙女の公爵令嬢は婚約破棄を宣言されました。

克全

第28話

翌日から、城代の指示を受けたサライダ公爵家の家臣が、精霊様の加護を疑えば、更なる災厄を受けると言う噂を流した。
地下用水路から現れる化物は、精霊様の怒りではなく、精霊様の加護を失ったことによる、地下の化物だと言う噂を流した。

これが王都住民の想いと一致した。
王家王国の悪政に、我慢に我慢を重ねていた民の怒りが頂点に達した。
王家王国だけではなく、貴族士族への怒りも並大抵ではなかった。
その気配を貴族士族もひしひしと感じていた。

大半の貴族士族が、ゴライダ王国を見限って逃げ出していたが、中にはしぶとく居座っていた貴族士族もいた。
彼らの館に、民の一団が襲撃をかけた。
手に手にありあわせの武器を持ち、精霊様の加護を再度得るために、元凶である王家と貴族士族を根絶やしにしようとした。

貴族士族は渇きに苦しみ、力を出せない状態だった。
中には水代わりのエールとワインを飲んで、酩酊状態だった者もいた。
とてもではないが、戦えるような状態ではなかった。
貴族士族は、叩き殺された。

民は精霊様の怒りを恐れ、残酷な殺し方を避けたのだ。
棒やメイスで叩き伏せて、地下用水路の前に縛って転がした。
サライダ公爵家の話を信じない訳ではなかったが、地下用水路から現れる化物が怖かったのだ。
地下用水路の前に生贄を捧げれば、被害が減るのではないかと。
誰からともなく言い出したのだ。

暴動の波は、遂に王太子の館と王城にまで及んだ。
メイヤー公爵の館は、既に廃墟と化していた。
王太子の館を襲撃した民は、シャーロットの反撃を受けて、あえなく喰い殺されてしまった。
だが、王城への襲撃は成功した。

王城を護るべき貴族士族が逃げ出してしまっていた。
残ったわずかな貴族士族も、水代わりの酒に酔ってしまい、戦える状態ではなかった。
最初は固く閉じられた城門の為に攻め込めなかったが、怒りに我を忘れた民が、攻城用の長大なハシゴを城壁にかけて攻め込んだのだ。

その中には、火事場泥棒のような犯罪者が混じっていた。
いや、生き残るために民に変装した、陪臣騎士や徒士が混じっていた。
彼らは、砂漠と荒野を横断出来るだけの酒を、手に入れることが出来なかった。
彼らも、このまま王都内で生き残れるとは思っていなかった。

生き残れる唯一方法は、この国を逃げ出す事だと思い込んでいた。
だから、未だに大量の酒を保有しているであろう、王家王国の酒蔵を襲うべく、民を先導したのだ。
陪臣とは言え、騎士や徒士である。
戦のイロハくらいは知っていたのだ。

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