前世水乙女の公爵令嬢は婚約破棄を宣言されました。

克全

第25話

犯罪者達は幾つもの拠点を持っていたが、王太子とメイヤー公爵家、サライダ公爵家、他の貴族家と王国、その全てを敵に回しては、活動が出来ないと判断した。
逃げ潜むことは可能だが、それよりは西の大国に行って、更なる力を手に入れようと考えたのだ。

彼らなりに裏世界でのし上がる自信もあったのだろう。
このような時の事も想定して、逃走経路も逃走資金も用意してあった。
戦いに勝ち抜けるだけの戦力もあった。
だが彼らの想定を上回るモノが、城外に待ち受けていたのだ。

彼らの不運は、サライダ公爵家と水の精霊を敵に回した事だった。
サライダ公爵領とオアシスを迂回して西の大国に向かうには、火竜の砂漠近くを通らなければならなかった。
だがそこには、化物が住んでいたのだ。

伝説の火竜には出会わなかったが、見るも醜悪な化物と遭遇したのだ。
顔は人間なのだが、その下にはトカゲの胴体が続いている。
退化した矮小な羽のようなモノは付いているのだが、飛べそうにはない。
ドラゴニュート、ドラゴンメイド、メリュジーヌ、ズメウなどと言った、世界各地に伝説がある半竜半人の生き物だった。

何十何百と言うドラゴニュートが、犯罪者達に襲い掛かった。
ドラゴニュート同士で、餌である人間を奪い合うように、それこそ四頭が四肢に食いつき、奪い合って引き千切ると言った生き地獄が、そこかしこで現れた。
一口で喰い殺してももらえないのだ。

犯罪者達も裏の世界で生き抜いてきた強者だ。
一方的に殺されるだけではなかった。
砂の中から不意に現れて奇襲され、余りに醜悪な姿に度肝を抜かれたとは言え、反射的に剣を抜き盾を構えて反撃をした。

だが、その反撃は一切通じなかった。
強者が振るう剣も槍も、ドラゴニュートの鱗を切り裂くことが出来なかった。
剛力の戦士が振るうメイスやハルバートも、ドラゴニュートの強靭な筋肉にダメージを与える事が出来なかった。

一方ドラゴニュートの攻撃は、爪を振るえば戦士が構える大盾を貫き吹き飛ばした。
噛みつけば鋼鉄製の手甲や脚甲が食い千切られた。
一方的な殺戮だった。
いや捕食だった。

総勢三百を超えるほどの大勢力だった犯罪者達は、皆ドラゴニュートの餌となり果てた。
ドラゴニュート達はよほど空腹だったのだろう。
骨一欠片、髪の毛一本も残さずに食い尽くされた。

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