大国王女の謀略で婚約破棄され 追放になった小国王子は、 ほのぼのとした日常を望む最強魔法使いでした。

克全

第163話説得

「ダイ、私です。ルイです」
「ウガァルルゥ」
雄叫びと共に、龍体のダイが激烈なブレスを放つ。
魔界の果てを通り越し、宇宙空間にまで飛び出しそうな、とてつもない勢いのブレス攻撃だ。
だがそれでも、自分の配下である玉鋼級魔晶石使い魔を、一切傷つけていない。
いや、配下を傷つけないために、拡散するようなブレスではなく、集約するブレスを放っているのかもしれない。
ダイらしい優しさが、龍体に成っても残っているのかもしれない。
「ダイ、正気に戻って下さい。私です。ルイです」
ルイは、ダイの玉鋼級魔晶石使い魔の陰に隠れている、配下の魔晶石使い魔を通じて、繰り返しダイを正気に戻そうとした。
「ウガァルルゥ」
だが遠隔から魔晶石使い魔を通じての説得だと、ルイの気配をダイに感じさせることが出来ないのか、怒り狂って攻撃を繰り返すだけだった。
どれほど強烈な攻撃魔法を放とうとも、魔界だと直ぐに魔力を補充できるので、魔力切れを起こさすことなど出来ない。
だからと言って、玉鋼級魔晶石使い魔のように、防御魔法で押し包み、隔離する事など出来ない。
例え百体の金剛石級魔晶石使い魔を送り込んだとしても、龍体のダイの足許にも及ばない。
奇跡的に防御魔法の壁に閉じ込めることが出来たとしても、金剛石級の千倍以上と考えられる、ダイのブレス攻撃を受ければ、一瞬で防御魔法の檻は崩壊してしまう。
ダイを正気に戻すことが出来ない限り、魔界に安寧の日はやってこない。
ルイの世界に未曾有の被害をもたらして魔界ではあるが、ルイは魔族を根絶やしにしたいとは思っていなかった。
既に全滅している可能性もあるが、魔族ほどの強靭な肉体を持った種族なら、地中深くか海中深くに逃れている可能性もある。
逃れていると信じたかった。
ルイとダイの決断で、一つの種族が絶滅したなと、考えたくなかったのだ。
いや、もしかしたら、一つの世界の生物が、根絶やしになっているかもしれない。
ルイは背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
ダイが龍であったことも、龍の攻撃の圧倒的な破壊力も、ルイを恐怖させることはなかったが、一つの 世界を根絶やしにしたかもしれない自分の決定は、身体が振るえるほどの恐怖を感じていた。
震えそうになる身体を気力で抑え、こわばってしまった心と身体に喝を入れ、命懸けの決断を下した。
「ダイ、私です。ルイです。今からそちらに行きますから、正気に戻って下さい」
ルイは、ガブリエラ王女を残して、魔界へと飛び込んでいった。

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