大国王女の謀略で婚約破棄され 追放になった小国王子は、 ほのぼのとした日常を望む最強魔法使いでした。

克全

第128話転戦

「大変でございます! ネッツェ王国内で首長が反乱を起こしました!」
「なんだと? それはどの辺なのですか?」
「ベルト王国と正反対の場所でございます」
「ダイはすでに出払っているし、私が動く訳にもいかないし、嫌な手を使ってきますね」
「私が表に出ても宜しいですが?」
「貴方は鬼族出身でしたね。敵も味方も殺すわけにはいかないのですよ。それでも大丈夫ですか?」
「威圧する為に、多少殺すくらいはいいのではありませんか? 若様やルイ殿ならば、どれほど多くの敵であろうと、眠らせることも麻痺させることもできるでしょうが、普通のミカサ一族では不可能でございます。だからと言って若様とダイ殿の手が空くのを待っていたら、多くの人間が戦争に巻き込まれて死んでしまうのではありませんか?」
「確かにその通りです。ですが一ついい方法があるのです」
「どういう方法ですか?」
「幻術ですよ」
「幻術でございますか?」
「そうです。幻術です。ミカサ一族の者で幻術が得意な者に、私に成り代わってもらうのです」
「なるほど。幻術で若様がここにいると見せかけておいて、実際には若様がネッツェ王国の内乱を鎮圧なされるのですね」
「はい、その通りです。ですから直ぐに幻術使いをここに連れてきてください」
「いえ、その必要はありません」
「どう言う事ですか?」
「わざわざ新たにベルト王国からミカサ一族を呼び寄せなくても、今ここに来ているミカサ一族の中に、幻術使いがおります」
「それは時間の短縮になりますね。直ぐにここに呼んできてください。念のために幻術のレベルをこの目で確かめさせて頂きます」
「は! ただ今直ぐに!」
エステ王国王宮に派遣されていたミカサ一族のうち、幻術が使える者が五人も集められた。
それぞれ得意な魔法属性は違うものの、みな幻術が使える者たちだった。
ルイが満足できるレベルの幻術使いは二人しかいなかったが、残りの三人も全く使い物にならない訳ではなく、二人が役目で手を離せない時や、どうしても二人が衆人環視の前でルイに成り代わらなければいけない場面では、レベルの低い幻術使いも役に立つ。
そんな五人の幻術使いとルイは、入念な打ち合わせをして、エステ王国の統治方針を確認し合った。
その中には、隣国が表立って武力介入してきた場合や、裏から傀儡政権を立てようとした場合に加え、エステ王国の貴族や聖職者が謀叛を起こした場合まで想定されていた。
それくらい綿密に打ち合わせた後で、ルイはネッツェ王国の内乱を止めに行った。
だがその話し合いは、それほど多くの時間を使ったわけではない。
それは話し合う相手が、ルイがエステ王国を統治するのを手助けに来たミカサ公爵家の一族だったからだ。
そもそもルイの方針が分かっていなければ、ルイの統治を手伝う事などできないから、思い違いや想定していない場面での対応を確認するだけでよかったのだ。

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