大国王女の謀略で婚約破棄され 追放になった小国王子は、 ほのぼのとした日常を望む最強魔法使いでした。

克全

第62話虎獣人村

「急いで奥山に人をやるのだ!」
「そうだ、身体能力のいい者を派遣しろ!」
「急がないと魔境から魔獣が出てきてしまうぞ!」
「そろそろ境界があいまいな時期になる。急がないと手遅れになるぞ」
ルイが迷子になっていた女子供を連れて行った村では、村人たちが必死の形相で捜索の準備をしていた。
「迷子を連れてきました。元の村に戻れるように手配してください」
「なんだと?! 今はそれどころじゃないのだ」
「おじさん!」
「おお、ジークじゃないか?! よく無事で戻ったな」
「私はまだ迷子の捜索をしなければいけないので、後は頼みましたよ」
「待ってくれ! あんたが助っ人に来てくれた人間だな? 失礼な言い方をしてしまったが、ジークを探し出してくれたこと、心から感謝する。だが感謝はしているが、この村以外の迷子は他の村に連れて行ってくれないか?」
「それはあまりに薄情ではありませんか? それに私はまだ迷子の捜索をしなければいけないのです」
「あんたがこれからも迷子の捜索をしてくれるのは、心から感謝している。だが我々も、魔境から溢れ出る魔物を防ぐのに手一杯なのだ」
「魔境から魔物があふれるのですか? ボスを倒してスタンピードでも起こるのですか?」
「いや、そうではない。ここから更に山奥に入ったところに魔境があるのだが、その魔境は月の満ち欠けで境界が変わってしまうのだ」
「初めて聞く現象ですね」
「ああ、ここの魔境独特の状況なのだが、タイミングの悪いことに一番魔境が大きくなる日に人間族の襲撃があり、多くの獣人が奥山の方向に逃げたから、魔境の境界線に人を送らないといけないんだ。とてもよその村の人たちを預かれる状況じゃないのだ」
「ならば私が魔境との境界線に行きましょう」
「なんだって?!」
「私なら空を飛べるので、魔境まで一飛び。それに魔物が襲ってきても、緋緋色金級までなら撃退して見せますよ。安心してください」
「大きく出たな! だがあんたなら本当にやってくれそうだな。分かった、あんたに任そう」
「「「「「若頭!」」」」」
ルイと虎獣人の若頭は馬が合ったのだろう。
少し話をしただけで深く互いを信頼し合う事ができた。
自警団の他の虎獣人は、ルイを信用しきれないようだったが、若頭の判断と指示を尊重して、魔境方面に全自警団員を送り込むのを止め、ルイが連れてきた迷子の出身村に連絡員を送るのであった。
身体能力に秀でた獣人族の中でも、虎獣人は飛び抜けて戦闘力が高く、魔境のスタンピードに備えると同時に、魔境で狩りをして生計を立てていたのだ。

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