婚約破棄された公爵令嬢は流浪の皇太子に愛される。

克全

第1話

「ダファリン女公爵マーリア。
余の婚約者の地位を笠に着て謀叛を企むなど許し難い。
余に父上に歯向かう叛意などない!
マーリアを断罪する。
公爵の位を剥奪し婚約も破棄する!」

遂にこの時がやってきました。
多くの貴族が集められた舞踏会場で、王太子が急に宮廷楽師の演奏を止めさせ、ダンスに興じていた貴族の眼を一身に集め、私に濡れ衣を着せました。
王太子を愛していたわけでもありませんし、何時かこうなると覚悟していました。
ですが政略による婚約だったとは言え、裏切られるのは哀しい事です。

私は幼い頃に両親を暗殺され、常に命と公爵の地位を狙われてきました。
忠臣達の話では、両親に病の兆候などなかったのです。
ダファリン公爵家を狙う者が両親を殺したと忠臣が断言し、一致団結して盾となり剣となり、私と家を守ってくれました。

ですが、年々忠臣達が亡くなっていきました。
皆一様に高熱に犯されて、異様な赤紫の斑点が出て死んでいきます。
両親と全く同じ症状だそうです。
残された忠臣達は、一様に毒殺を疑い、私を含めて家中一同対策を講じましたが、全く効果がありませんでした。

残った僅かな忠臣と王家におもねる家臣達の激論の末、私が第一王子の婚約者となる事で、私とダファリン公爵家を護るという苦渋の決断をしたのです。
選帝公ダファリン公爵家の女当主である私が第一王子と婚約した事で、四大選帝公家が揃って第一王子を王太子に選び、暫くは平穏な年月を過ごす事ができました。
ですが誰かがダファリン公爵の位を狙ったのです。

「濡れ衣です!
私もダファリン公爵家も謀叛など企んでいません。
誰かの罠です。
四大選帝侯家の一つダファリン公爵家の当主として、公正な裁きを要求します!」

舞踏会場には多くの貴族がいます。
もし、一人でも味方してくれたら、流れを変えられるかもしれません。
そう思って顔見知りの貴族に視線を送りましたが、多くの者が慌てて視線を外し、中には嘲笑を浮かべる者までいます。
同じ四大選帝公のヘイスティングズ公爵とブリーダルベイン公爵にも視線を外されてしまいました。

「往生際が悪いですよ、マーリア嬢。
貴女も謀叛を企むほどの大悪人なら、往生際は潔くした方がいい。
そうですな、ティッチフィールド公爵殿」

「真にその通りです、ヒックス王弟殿下。
マーリア嬢の叛乱計画は、ここにいる王家に忠誠を誓うダファリン公爵家の者達が証言してくれている。
王家に叛き叛乱に加担した奸臣共も、ここにいる忠臣達が成敗してくれた、だから潔く罪を自白し、王家に慈悲に縋り、苦痛のない死を願うのだな」

おのれ、爺達を殺したと言うのですか!
絶対に許さぬぞ!
ヒックス王弟、ダファリン公爵!
それに王太子ウェルズ!
必ず復讐して見せます!





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