「異世界動画で億万長者・ドローンの御蔭で助かっています」(神隠しで異世界に迷い込んだ人間不信の僕は、又従姉の助けを受けて異世界で生き残ろうと必死です)

克全

第93話釣り野伏

「閣下、迎撃の準備が万端整いました、囮役に出陣の合図を御願いいたし」

サートウ家騎士団長を務めるツェツィーリアが、俺に訓練開始の合図を願い出る。

「うむ、ギュンター、決して無理せず、自分も配下も無事帰ってくるように致せ」

「は! 慈愛に満ちた御言葉を賜り、感謝の言葉もございません! 私も配下も怪我(けが)する事無く、無事に下知(げち)を果たして御覧に入れます」

「期待しているぞ」

「は!」

俺の指示を受けて、鹿獣人で編成された囮部隊が魔境に向けて走り出した。迂闊(うかつ)な俺は、昨日の実戦訓練でやっと気付いたのだが、獣人たちの中にも差別と言うか遠慮があったようで、俺の側近は人獣族だけで編成されていた。

最初は俺にもその違いが分からなかったのだが、人獣族と言う、満月期には完全獣形態・半月期には半獣形態・新月期には人型形態の種族がいる。同時に獣人族と言う、常に半獣形態の種族もいるのだそうだ。

それで今までの人間とのかかわりで、完全人型形態を取れる人獣族の方が人間社会との関係が濃密で、同じ差別される種族であっても人獣族の方が地位が高かったそうなのだ。

だがそのような慣習は、俺の不完全な良心が許さないので、ツェツィーリアに獣人族も側近に加えるように厳しく言い渡した。ツェツィーリア多少複雑な表情をしたが素直に従い、最終警護を担う最側近を人熊族と熊獣人の混成部隊に改編した。

俺の指示に従いながら、俺の最終警備力を増強するのだから、ツェツィーリアも強かな者だ。

「さてツェツィーリア、俺の魔力はそんなに向上しているのか?」

「はい、昨日くらいの討伐数では、通常は閣下のように早く魔法を習得できません」

「ふむ、検証のしようがない事だが、俺個人がこちらの人間と違うのか、それとも地球の人間が特別なのかだな」

「私としては閣下が特別と思いたいですが、万が一閣下と敵対する地球の人間が大挙して攻め寄せてきた場合も想定しなければなりません。ですから地球人が特別と考え、魔力が増大する前に皆殺しにするように準備いたします」

「ああ頼むよ」

しかたないよな、Y組が未だに毎日1人は人間を送り込んでくるからね。もっとも最近は、組員じゃなくて浮浪者を騙して送り込んでいるようだ。姉さんにも伝えて、政府に対応を御願いしてるけど、T国やK国も関与しているようで、完全に防止は難しいみたいだ。

しかし魔力の増大をどう考えるべきだろう?

昨日の討伐だけで、小魔矢と小魔剣だけじゃなく、小魔矢陣・小魔剣陣・小魔槍を覚えることが出来た。ゲームの常識と違うのは分かっているが、どうも感覚がゲームになってしまいそうだ。

まあそのお陰で、今日の訓練段取りとなったのだが、果たして想定通りに運ぶのだろうか?

いや、大丈夫だ!

ツェツィーリアや獣人達を信じるんだ!

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