「異世界動画で億万長者・ドローンの御蔭で助かっています」(神隠しで異世界に迷い込んだ人間不信の僕は、又従姉の助けを受けて異世界で生き残ろうと必死です)

克全

第44話駆け引き

「イチロウさま、てきがにげていきましたね」

「ああ、バルバラ殿が勅使に会ってしばらくして撤退を決意したようだね」

「おじいさまのはなしでは、みひゃるけこうしゃくがいたのですね」

「ああ、恐らくミヒャルケ侯爵は、バルバラの策を見抜いたのだろうね」

ミヒャルケ侯爵の引き際は見事の一言だった!

バルバラがバッハ聖教皇家の勅使と会い、巨額(きょがく)の賄賂(わいろ)を使って休戦の仲介を引き受けさせたのだが、こう言う手をローゼンミュラー家が打ってきた場合は、即時撤退すると決めていたのだろう。そうでなければこれほど早く軍を引くことは無理だ、事前に決めて将兵に徹底しておかなければ、手柄や略奪品が欲しい家臣が納得しない。

将兵には、ローゼンミュラー領に侵攻させた先鋒が敗れ、ダンジョン都市に押し込めたアーデルハイトとが勅使に面会した場合は、必ず勅使が仲介のための軍を集めると言って聞かせていたのだろう。バッハ聖教皇家の実戦力は皆無とは言え、長年に渡り国の象徴として、各時代の武王家に担がれてきた悠久(ゆうきゅう)の歴史がある。戦争が膠着状態(こうちゃくじょうたい)になった場合は、敵味方の面目(めんもく)を保って休戦するために、バッハ聖教皇家に仲介してもらうことはよくある事だそうだ。

まあミヒャルケ侯爵家にとったら、莫大な資金源を得て注目されているとはいえ、実戦力は騎士家でしかないローゼンミュラー準男爵家に負けて休戦を仲介をされたとあっては、面目丸(めんもくまる)つぶれと言えるだろう。

それにミヒャルケ侯爵なら、アーデルハイトとバルバラでは集める事ができなかった兵力も、バッハ聖教皇家の勅使なら集める事ができると予測したのだろう。勅使の地位は、現実の戦力や影響力が皆無であっても、成り上がりを目指す傭兵や冒険者には魅力的に映る。バッハ聖教皇家の内実を知らない底辺の人間であればあるほど、憧れを持って見ているのだ。将来有力貴族の騎士になりたいと思っている者なら、勅使の仲介軍に参加した事が、仕官をする際に評価されると思いたいと言う話だ。

勅使にしても、莫大な賄賂(わいろ)を手に出来た上に、今まで考えることもできなかった、軍勢を率いると言う権力を手にする事ができるのだ。一時的ではあっても、普段は怯(おび)えることしか出来ない有力貴族やその将兵に対して、上から目線で話をする事ができる。

最初はミヒャルケ侯爵の報復を恐れ仲介を渋っていた勅使も、バルバラが今の倍の収入を保証した上で、家族ともどもローゼンミュラー領内で保護すると誓約(せいやく)した事で話がまとまったそうだ。急遽集まった勅使軍500兵と、アーデルハイト率いる200兵が戦場に向かった時には、ミヒャルケ侯爵軍は戦場からいなくなっていたと言う話だ。

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