王子様探偵と妖狸町中華とダンスィ

克全

第6話誘拐6

敦史は余程弟妹が心配だったのだろう。
母親とドアの間をすり抜けるようにしてアパートの中に入った。
だが中には情夫がいるはずだ。
破れかぶれになって何をするか分からない。

だが俺の心配など不要だった。
俺が動く前に、剛龍が母親を押しのけて中に入ってくれる。
弁慶は俺の背後に立って狙撃コースを防いでいる。
いつまでも過保護なことだ。

剣鬼の母親を押しのけて中に入る。
俺が入りたいと思っているのを分かってくれている。
親子六人家族で三DKのアパート暮らし。
教団と政党の後押しで生活保護を受けているのだろう。

入った途端に強烈な臭気がする。
ドアを開けた時から臭っていたが、中に入った途端生ゴミが腐った臭いがする。
まるでゴミ屋敷のようだ。
この衛生状態じゃ子供達が病気になる。

台所で一升瓶を抱えているのが情夫か養父だな。
嫌な目だ。
強い者には媚びて、弱い者を虐待する。
腐れ外道独特の眼つきをしている。

台所に有るのは、酒と肴。
子供達のための物など一つもない。
子供達四人分生活保護費は、こいつらの遊興費になっているのだろう。
子供二人が、糞尿と嘔吐に汚れた布団で寝ている。
ピクリとも動かない!

「無事か⁉」

「酷い打撲痕と火傷です。
このまま放置していたら確実に死にます」

子供達の状態を確認していた剣鬼が、素早く台所に行って何か作っている。
恐らく経口補水液でも作っているのだろう。
子供達は下痢と嘔吐で死にかけている。
何もしなければ、救急車が来るまでもたないかもしれない。

「何故医者に連れて行かない。
死にかけているではないか!
これを気がつきませんでしたなどと言えるのか!
未必の故意により殺人だぞ!
今撮影している動画が証拠になる」

「なに言っているのさ!
これくらいで人が死ぬもんか。
風邪なんて放っておけば勝手の治るんだよ!
この程度で人が死ぬもんか」

嘘だな。
証拠の動画で言い訳をしておくつもりだな。
性根の腐った奴だ。

「……」

情夫の方は嫌な目で睨んでやがる。
脅えるような上目遣いで見ている。
屈強な弁慶達がいるから大人しくしているが、俺一人だったら、背中を見せた途端に襲い掛かってきそうだ。

「急いで救急車を呼んでくれ。
子供達の状態も詳細に報告してくれ」

「はい」

剣鬼が救急車に連絡してくれる。
剛龍が子供達に経口補水液を飲ませている。
弁慶は視線で情夫を黙らせ、背後の安全を確保してくれている。

「敦史君。
この子達の衣服を出してくれ。
ここに置いていたら殺されてしまう。
病院に入院させるにしても、児童養護施設に保護するにしても、服は必要だからな」

「うん!」

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