王家を追放されたわけじゃないけど、世直しすることにしました。

克全

第77話捕虜返還

「アーサーを出せ! 僭王を呼んで来い」
「やかましいわ!」
ドコォ!
馬鹿な奴だ。
せっかくネッツェ王国の王太子が、アリステラ王国経由の非公式ルートを使い身代金を支払ってくれて、母国に帰国できると言うのに、ここで俺を僭王呼ばわりしたら、何もかも台無しになる。
いや、国や王太子に汚点を残さないように、この捕虜返還を潰す心算なのかもしれない。
だがそれこそ愚か者だ!
今回の人質返還が非公式ルートで行われたのは、イマーン王国との同盟を破綻させないための苦肉の策なのだ。
イマーン王国は軍資金も兵糧も乏しいので、捕虜になった者を身代金を支払って取り返すことが出来ない。
それは王族であろうと大貴族であろうと同じだ。
俺の私見だが、建国間もなく痩せた領地しか持たない我が国は、大量の捕虜を抱えると食糧不足に陥ると考えているのだろう。
もっと皮肉な考え方をするなら、なけなしの軍資金を払って捕虜をとりかえしても、喰わせる食料がないのかもしれない。
だが表向きはそう言えないから、捕虜になるような弱兵は不要と言う建前を公表している。
ネッツェ王国としても、共に我が国と戦う同盟国と歩調を合わせる必要があり、表向きは捕虜に身代金を支払わない建前になっている。
だがそんな事をすれば、国の為に戦い捕虜になった家族がいる貴族士族が反感を持ってしまう。
そこでアリステラ王国を通じて身代金を支払い、アリステラ王国経由で帰国させると言う方式を使うようになった。
もっとも対象者は結構少なくて、貴族士族独自に身代金を払える者だけだ。
ネッツェ王国としても、我が国が二十万以上の人質を抱えることで、食糧不足になると計算しているのだろう。
馬鹿な奴らだ。
俺が定期的にアゼス魔境で食糧を調達しているから、我が国の国民も、捕虜として我が国に留まっているネッツェ王国人もイマーン王国人も、ただの一人もひもじい思いをさせていない。
それにしても変われば変わるものだ。
元々ネッツェ王国とイマーン王国は、歴史的な敵対国家なのだ。
俺がこの地を切り取ったのも、最初はネッツェ王国とイマーン王国の諍いが始まりだった。
それが俺の独立宣言を受けて、共に領地を占領され、共に壊滅的な敗戦を繰り返したことで、同盟して我が国に戦いを挑む状況になっている。
ドワフランド王国からアリステラ王国にまでつながる、長い回廊のような領地を得たことで、大陸交易路を補完する立場になれた。
有り余る魔力を使い、ネッツェ王国の大陸交易路以上に整備された街道を創り出したのだ。
すでにアリステラ王国の商人が堂々と使用している。
将兵も軍資金も兵糧もないイマーン王国には、それを邪魔する事など出来ない。
まだ底力を残しているネッツェ王国でも、アリステラ王国に参戦の口実を与える、アリステラ王国商人の襲撃は出来ない。
表向きは、精々中立を守ってくれと抗議するくらいだ。
問題は盗賊に偽装した、少数精鋭による襲撃だが、腕の立つアリステラ王国冒険者が護衛についているから、一人でも捕虜になれば、アリステラ王国との戦争を覚悟しなければならない。
まあだからと言って、我が国の為に交易に来てくれる商人を危険にさらすわけにはいかないから、百人規模の巡視隊を頻繁に派遣している。
ここまでは予想取り順調だ。
そろそろ次の一手を打つべき時が来た!

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