王家を追放されたわけじゃないけど、世直しすることにしました。

克全

第68話奴隷の食事

「みんな御飯だよ」
「わ~い」
「お腹空いた~」
「おとうさん、はやく、はやく」
奴隷達が満面の笑顔で集まって来る。
家畜の糞と魔境の腐葉土で豊かになった大地に、短期間に育つ菜や蕪の世話をする奴隷達だ。
今日は天気が良いので野外での食事だ。
アリステラ王国の平均的な民の食事に比べれば、多少は偏ってはいるものの、イマーン王国の基準では考えられないくらい豊かな食事だった。
温めて殺菌した乳が各種並んでいる。
牛乳、山羊乳・羊乳だ。
ただし馬の乳は並んでいない。
乳酒の中でも最もアルコール度数が高くなる馬乳は、全て馬乳酒にされるのだ。
もちろん頭数が多いので、乳の総量が最も多い山羊や羊の乳も、山羊乳酒や羊乳酒にされるが、アルコール度数が一パーセント前後になる他の乳よりは、二パーセントになる馬乳酒の方が乳酒にするには好まれた。
乳酒には各種ビタミンが含まれており、食事が偏り健康を損ないやすい奴隷にとっては、欠かすことの出来ない食料になる。
更に限られた食材を美味しく食べるために、チーズ、バター、クリーム、ヨーグルトを作り、採れた菜や蕪と組み合わせて、とても美味しい食事が供されている。
一日の食事が乳製品だけの時は、大人で五リットルもの量を食べる時があった。
だが今の奴隷数と家畜数では、乳製品だけで食糧を確保するのは難しいので、当然アーサーの魔法袋から銅級の魔獣や魔蟲が供出されることになる。
「こんなぁ、こんな馬鹿な。こんなことがあるはずがない!」
「うるせぇ! せっかくの食事が不味くなる!」
「おい、おい。御前が怒鳴ると、子供達がびっくりするだろう」
「ああ、すまん」
「気持ちは分かるが、御殿様の下され物の食事は、美味しく頂かないといけないだろ」
「そうだな、そうだったな」
「おまえら、これは特別な食事だろ! 何時もはもっと貧しい食事なのだろ!」
「はん! イマーン王国と一緒にするな!」
「そうだ、そうだ」
「ここにきてから、まいにちごはんがたべられるよ」
「それもさんかいだよ。さんかいも、おなかいっぱいごはんがたべられるんだよ」
「よく聞け、糞役人! 無能な国王の下で暮らしていた頃は、それこそ何日も食べることが出来なかったよ!」
「嘘だ! そんなはずがない! 三万を越える奴隷に毎日満腹になるまで食事を与えるなんて、絶対に不可能だ!」
「ふん! 満腹になるまで食事が出来るだけじゃない。イマーン王国の無能な王の下で暮らしていた時は、年に一度祭りの時にしか飲めなかった酒を、殿様は毎日下されるんだ!」
「なんだと!」
(まあ、作るのは大変だけど、そんな事は言っていられない)
イマーン王国の特使は、元自国民の奴隷達に、散々悪口雑言を叩きつけられた。
護衛の兵が奴隷を斬り付けようとしたが、逆にアーサー配下の警備役奴隷兵士に叩きのめされた。
警備役の奴隷兵士は、イマーン王国の貧民だった時に、さんざん苦しめられた正規兵に復讐したいと、その機会をうかがっていたのだ。
魔境の素材で作られた武器と防具を装備した奴隷兵士は、少々の腕の差など埋めてしまうほどの補正を受けることになる。
しかも多人数で袋叩きにしたので、イマーン王国正規兵に勝ち目はなかった。

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