王家を追放されたわけじゃないけど、世直しすることにしました。

克全

第63話ネッツェ王国の事情:王太子視点

まったくもって忌々しい話だが、グレアムの言う通りだった。
確かに我がネッツェ王国は、まだ国の形が整わないドワーフ族に対して、不利な条約を強制した。
ドワーフ族が結束し、ドワフランド王国と言う国の形をとってからも、国と国との約束を守るべしという建前と、強力な軍事力を背景に、不利な条件での貿易を強制している。
ここで我が国が、アーサーに対して一方的に盟約を破棄するような事があれば、ドワフランド王国はアーサーを独立領主と認め、支援をした上で我が国との盟約を破棄するだろう。
我が国が弱者に対して一方的に盟約を破棄した以上、我が国も一方的に盟約を破棄されても仕方がない。
いや、相手がアーサーとドワフランド王国だけならば、軍事力にモノを言わせて、此方に有利な条件を無理矢理飲ませることが出来る。
だがアーサーやドワフランド王国と敵対した場合、ほぼ百パーセントの確率でアリステラ王国が介入してくる。
アリステラ王国が介入してくれば、当然イマーン王国も黙っていないだろう。
アリステラ王国は数多くの魔境を抱えているから、我が国以上に食料に余裕もあれば、一騎当千の戦士も多い。
我が国から見れば強力な戦士でも、アリステラ王国では卒族にも成ることが出来ずに野に埋もれているのは、アーサーとその配下の戦いぶりを見れば明白だ。
しかもアリステラ王国は、国力に余裕があるからなのか、隣国との貿易条件にとても寛容だ。
我が国のように、軍事力を背景に隣国から富を奪うような真似をしない。
我が国とアリステラ王国が敵対することになったら、アーサーやイマーン王国は、イマーン王国とアーサー独立領をアリステラ王国と地続きにしようとするだろう。
アーサー独立領もイマーン王国も、アリステラ王国から直接食糧を輸入出来れば、我が国の高い関税や輸送費がなくなるので、今よりはるかに安く食糧を手に入れることが出来る。
何よりアリステラ王国の魔境に出稼ぎに行くことができたら、食糧事情が根底から覆る。
そうなれば、イマーン王国は積年の恨みを晴らそうと、我が国に攻め込んでくるのは明らかだ。
いやそれだけではない。
これはドワフランド王国にも当てはまる。
アーサーはアリステラ王国の出身だから、貿易政策や対外政策はアリステラ王国方式をとるだろう。
そうなれば、我が国とは比べ物にならない安い関税と対等な条件で、アーサー独立領を通じて商品が売買されてしまう。
アリステラ王国の魔境で狩られた食糧がドワフランド王国に流れ、ドワフランド王国で生産された強力な武具がアリステラ王国に流れ込む。
我が国が大陸の中央部に位置している事で手に入れていた、莫大な中継交易利益の過半数が、アーサー独立領とイマーン王国に取られてしまうことになる。
ベニートも苦々しい顔をしている。
ベニートは我が国では最高の軍師だと思っていたが、グレアムの方が優秀なのか?
「殿下! 決断されてください」
「分かった、ではグレアムの意見を聞こうか」

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