王家を追放されたわけじゃないけど、世直しすることにしました。

克全

第62話ネッツェ王国の事情:グレアム視点

「アーサーと言う奴は、独立すると申したのだな」
王太子殿下は家臣が忠誠を誓うのは当然だと思っておられるようだ。
この間違いは正しておかねばならない。
そうしておかないと、思わぬところで裏切り者が出てしまう。
「いえ、不当な要求をされない限り忠誠を尽くすと申しました」
「それはグレアム卿の私見であろう」
ベニート殿は何も分かっていない。
王国随一の知恵者と言われているが、人の心の機微や欲得には疎いようだ。
何よりも、誰もが自分と同じように王太子殿下に忠誠を尽くして当然と言う思いが、政(まつりごと)を誤らせる。
「いえ、騎士の常識でございます!」
「グレアム卿は、騎士が主君に叛旗を掲げるのが当然と考えているのだな」
「ベニート卿こそ、主君なら騎士が独自で切り取った領地を奪って当然と御考えなのですね」
「そんな事はない。先祖伝来の領地を奪うような真似はせんよ。だが今回アーサーが切り取った領地は、ネッツェ王国の名の下に行われたものだ。ネッツェ王国の御威光がなければ切り取れなかった」
「愚かな」
「愚かはグレアム卿だ」
「なんだと!」
「この言い分が無理無体な事など十分理解している」
「だったら何故このような無茶を押し通そうとされるのですか!」
「アーサーがアリステラ王国の紐付きだからだ」
「そんな事は最初から分かっていたことではありませんか!」
「この決定は、王太子殿下と私がドワフランド王国使者に行っている間に、ビアージョ王子一派が行った愚かな決定だ」
「不遜だぞ、ベニート!」
「なんだと、グレアム」
「ビアージョ王子が主導しようとしまいと、国王陛下が決済を下された決定に異を唱えるのは不遜だと申しているのだ!」
「ふん! 愚かだから愚かだと申したのだ!」
斬る!
「不忠者! 黙っておれ、ベニート!」
ちぃ!
君側の奸を斬る心算だったが、邪魔をなされるか。
そこまでベニートが可愛いのか。
「グレアムの言う通り、誰が主導しようと、陛下が下された決定には従わねばならぬが、アリステラ王国の通じた者に大領を与えるわけにはいかないのだよ」
「殿下は目が曇っておられるのか? それとも君側の奸に誑(たぶら)かされておられるのか?」
「なんだと!」
「アーサー殿は、ネッツェ王国から一兵も貸し与えられることもなく、一粒の麦も支援されることもなく、ネッツェ王国が対応に苦慮していたイマーン王国の策謀を跳ね返し、あまつさえ領地を切り取ったのです」
「・・・・・」
「それを不当に盟約を破って領地を奪おうとすれば、アリステラ王国だけではなく、他国も黙っておりませんぞ!」
「アリステラ王国が勢力を伸ばすことを警戒している国は多いのだ」
「人の心の機微が分からぬ若輩者は黙っておれ!」
「なに!」
「黙っていろと言ったはずだぞ、ベニート!」
「はい・・・・・」
「殿下はドワフランド王国に使者に行かれたのですから、ドワーフ族が約束を最重視していることくらい御存知でしょう」
「存じておる」
「ネッツェ王国が一旦約束したことを反故にして、アーサー殿の領地を奪おうとしたら、ドワフランド王国はどうすると思っておられるのですか!」
「どうすると言うのだ」
「祖先がドワフランド王国と結んだ不当な盟約は、全て破棄されることになるでしょう」
「なに! それはどう言う事だ!」
「今御説明いたします」

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