王家を追放されたわけじゃないけど、世直しすることにしました。

克全

第57話奴隷狩り1

「殿、ネッツェ王国の狙いは奴隷でございますか?」
「そうだろうね。国境線を深めたいという狙いもニ・三割あるだろうけれど、そこに守備隊を置いたら、その分領地経営の費用が掛かってしまう。だから本当の目的は、イマーン王国の民を狩って、奴隷として売ることだろうね」
「見過ごすのですか?」
「いいや、先手を打つ」
「イマーン王国の民を助けられるのですね」
「勿論それが一番の目的だけど、士爵として他の士族や貴族に舐められるわけにはいかない」
「そうでございますね。殿がここまで築かれた実績を、横から掠めるようにイマーン王国領に侵攻するなど、許せることではございません」
「それで手順と派兵なのだけど、四個部隊に分けようと思う」
「殿、私、マーティン、ロジャーが指揮官ですか?」
「パトリックは心配なのだろうけれど、他の近習衆もメキメキと腕を上げているし、いざという時には身を挺して余を助けてくれるよ」
「その心配はそれほどしておりませんが、城の防衛は大丈夫でございますか?」
「五百の冒険者兵を残せば、一万の大軍が攻め寄せても大丈夫だと思うが?」
「力押ししてくれれば、奴隷達も死ぬ気で守備に就くでしょうから、何の心配もないと思います。ですが搦手で攻めてこられたら、味方が城門を開いてしまう可能性があるのではないですか?」
「ネッツェ王国のイブラヒム王家やアッバース首長家が、高官を使者に送ってきた場合かい?」
「はい」
「留守を預かる者に、例え国王陛下自身がやってきたとしても、絶対に城門を開くなと申し付けておくよ」
「ネッツェ王国との開戦も考慮されておられるのですか?」
「領主の留守に、無理矢理城に入ろうとするような人間に忠誠を誓う気はない」
「独立されると?」
「必要に迫られたら敵対はするけれど、できればもっと時間が欲しいな」
「のらりくらりとイブラヒム王家やアッバース首長家の要求をかわす御心算なら、私かマーティンがラボック城に残っている方がいいと思われますが?」
「おいおい、もう少し他の近習を信用してやれよ」
「恐れながら、殿ももう少し近習を信用してあげて下さい」
「俺が奴隷集めの隊長に、他の近習を抜擢しない事を言っているのか?」
「はい」
「そうか。そうだな。俺の方が近習衆を信用していないのかもしれないな」
「どうなされますか?」
「確かにパトリックの言う通りなのかもしれないが、長年苛政に苦しんできた村人に対応するのは、なかなか難しいと思うのだよ。もっと色んな場面で経験を積ませ、俺自身がこの目で行動を確認してからでないと、心配で胸が痛むのだよ」
「仕方ありませんな。今回は殿の申される通りの布陣で行きましょう」

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