王家を追放されたわけじゃないけど、世直しすることにしました。

克全

第50話遊牧

「まてぇ~」
「逃げちゃだめぇ~」
「遅いぞ、マリー」
子供達が楽しそうに羊を追いかけている。
父母と一緒に奴隷に落とされたのだが、幸せ一杯の様子だ。
飢えから解放されるというのは、これほど人を明るくするのだな。
俺は賭けに成功した。
食料として、アリステラ王国から大量の羊・山羊・牛・馬を輸入したいという提案を、イブラヒム王家とアッバース首長家が認めてくれた。
危険なネッツェ王国内の移動も、少しでも戦費を減らしたいイブラヒム王家が、国内の貴族士族に護衛を命令してくれたので、無事に最前線まで運ぶことが出来た。
戦争で物価が高騰しているネッツェ王国内だったが、ほぼ国内を縦断する形で何度も大量の羊・山羊・牛・馬が大量に移動するので、肉の値段が一気に下落した。
何と言っても二十人の冒険者兵士に率いられた五百頭の群れが、二十度も国内を通過したのだから、安心感が違った。
しかも途中で購入してもらえる餌代が、通過する村々を潤した。
もちろん相場の料金を払えば家畜を購入することも可能だし、金が不足している場合は乳だけを購入することもできた。
移送途中の事故や病気で死んでしまう家畜もいたが、それでも一万頭弱の家畜がラボック砦とダラム城に運び込まれた。
この移送は徐々に行われたので、家畜達を安全に放牧管理する為の放牧場が作られた。
ダラム城の周囲に、三重の星形要塞を築き、更にその外側に、東丸・西丸・南丸・北丸・北東丸・南東丸・北西丸・南西丸の八つの外城を創り出し、幅三十メートル高さ三十メートルの土塁の上には、冒険者兵士の住居兼用の城壁を設けた。
もちろんその外側には、幅三十メートル深さ三十メートルも水濠が創ってある。
八つの外城の内側は、広い放牧場と家畜小屋が創られていて、家畜小屋には家畜の世話をする奴隷の部屋も併設されている。
だが問題もあった。
それは家畜に与える餌、牧草をどこで手に入れるかだ。
それでなくとも険しい山岳地帯で、森林や牧草が生える場所が限られるイマーン王国だ。
比較的なだらかなネッツェ王国との国境近くで、アレクサンダーが魔法で造成したとはいっても限界がある。
そこでアレクサンダーは密かにアリステラ王国に戻り、魔境に入って莫大な量の落ち葉、牧草、魔樹の枝葉を魔法袋に詰めて持ち帰ってきたのだ。
魔境産の栄養豊富な餌は家畜を肥やし、その家畜が排泄した糞が栄養豊富な耕作地を創り出し、外城の内側は豊かな農作地に変わっていった。

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