王家を追放されたわけじゃないけど、世直しすることにしました。

克全

第42話偵察1

斥候職の冒険者兵士が合図を送って来る。
恐らく目標の村を発見したのだろう。
イマーン王国の兵士が駐屯していない限り、余裕で偵察を成功させるだろう。
百人を超える冒険者兵士の中でも、専門の斥候職は五人しかいない。
どのパーティーも戦闘力を充実させたくて、斥候と戦士を兼任している者が多く、俺が安心して任務を任せられる者は八人しかいなかった。
今回はそのうちの二人を同行させている。
俺とパトリックに加えて、斥候職が二人だ。
それに弓の腕が優れている射手(いて)や狩人を二人同行させている。
今回参加してくれている冒険者兵士の多くが、投石術か弓術を心得ているのは、生きて狩りを成功させるために必要だからだ。
強力な魔獣や獣を安全に狩ろうと思ったら、遠距離からの攻撃方法は必要不可欠なのだ。
その中でも特に弓術に秀でた二人を同行させたのだ。
そして最後の二人は盾職の戦士だ。
勿論爺が厳選した盾職戦士だから、遠距離攻撃術として投石もかなりの実力がある。
だが何よりも強力なのが、全身を隙間なく覆う白銀級魔獣製の革鎧だ。
しかも所々の補強に魔獣の骨と綿を組み込んでいるから、切れ味だけでなく打撃力や衝撃力まで緩和してくれるのだ。
白銀級魔獣の中でも特に硬いビッグクロコダイルの革を重ねた革鎧は、全ての冒険者垂涎の逸品だ。
鋼鉄で出来たフルアーマープレートよりも硬く、革鎧の柔軟性も兼ね備えており、少々の魔獣の攻撃なら何のダメージも受けない優れモノだ。
しかも革鎧だけではなく、立ったまま全身を護れるくらいの、大きな壁盾までビッグクロコダイルの革と骨で作られており、鉄壁の防御力を誇っている。
そんな選び抜かれた八人が偵察に向かったのが、僅か十三軒しか家がない寒村なのには訳がある。
それは、今回イマーン王国が採用している戦術が、とても狡猾だからだ。
大々的な侵攻作戦や、ネッツェ王国を国内に引き込んでの内戦防御作戦なら、どの国にも蓄積された戦闘経験があり、対応のしようもある。
だが国境付近の民を山賊化して、五月雨式に略奪に派遣されては、ネッツェ王国も国境付近の村々を完全に守り切ることが出来なかった。
イマーン王国は、王家直属軍や領主軍を動員することなく、飢え民を山賊化する事で、飢饉を乗り越えようとしたのだ。
この方法なら、国庫に負担をかけずにゲリラ戦を始めることが出来る。
多くの民がネッツェ王国で殺されることになっても、どうせ何もしなければ飢え死にするだけなのだ。
無駄死にさせるくらいなら、死ぬ前提の兵士にしたて、棄民すればいい。
だが正式に兵士にすると、最低限の兵糧と武器を支給しなければいけない。
武器は竹槍や棍棒でもなんとかなるが、支給する食糧がない。
だから指導役の兵士を送り込み、自弁で盗賊に仕立て上げ、イマーン王国に送り込んだ。
イマーン王国の民から見れば、飢え死にするくらいなら山賊になった方がましだし、鈍らとは言え国から武器の支援がある。

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