王家を追放されたわけじゃないけど、世直しすることにしました。

克全

第39話忠誠心

「本当にそれでいいのか? 家を捨て国を捨てることになるのだぞ」
「情けない事を申されますな。殿下から賜った恩は、天よりも高く海よりも深いものです。それに我らは家を出ますが、弟が家を継ぐことを陛下が認めて下さっていますので、家名が断絶するわけではありません」
「有難い事ではあるが、それほどの恩賞を与えた覚えなどないぞ」
「いいえ、殿下に選抜して頂けた御陰で、ウィギンス卿から武芸の指南を受けることが出来ました。その御蔭で誰にも負けない実力を養う事が出来ました。ウィギンス卿直々の指揮の下、魔境やダンジョンで実戦訓練をつけて頂けました。本来なら斃した獣や魔獣は殿下に収めるべきところを、参加した家臣に公平に分け与えていただけました」
「待て待て、それは当たり前の事ではないか」
「それは違います。王家王国の家臣同士が、休日に私的に組んでの狩りなら別ですが、主君に仕える出仕時間中に、公務として魔境やダンジョンで狩った獲物は、全て主君に納めるべきものです。それを全て公平に分けて頂いてきました。その御蔭で、誰にも負けない強固な武器や防具を、家族皆がそろえることが出来ました。これほどの御恩はありません」
「そうか。そう言ってくれるのなら、遠慮せずにその方達の忠誠心を受けさせてもらおう」
「有難き幸せでございます」
「そこでなのだが、家臣をいくつかの役割に分けたいのだ」
「どう言う事でございますか?」
「私と共にネッツェ王国に行く者も必要なのだが、王都に残って情報を集める者も大切なのだ」
「それは、今まで通り御屋敷を預かる者がおるのではありませんか?」
「今まで以上に、警備を務める者が重要になると思うのだが」
「それは、確かに必要かもれません」
「それとな同じくらい大切なのが、アゼス魔境は当然だが、他の魔境でも狩りをして、余の為に軍資金や兵糧を集める者だ」
「確かにそれも大切でございますね。ネッツェ王国内で大規模な軍事行動をするとなると、継続的な補給は不可欠になります」
「アリステラ王国は表立って介入できないから、冒険者組合や商人組合に依頼を出すことになるが、自分たちが狩った物資の輸送を頼むにしても、全てを購入して輸送してもらうにしても、軍資金が必要不可欠だ」
「恐れながら申し上げます。殿下が今までにアゼス魔境で狩られた素材だけで、国軍全軍を一年以上戦わせられるのではありませんか?」
「確かに私の狩った素材は、それだけの価値はあると思う。だが価値があり過ぎて、迂闊に市場に出すことが出来ない」
「その恐れは確かにございますね。金剛石級の素材は勿論、白銀級の素材であっても、王家王国が介入する可能性がございました。これは私が迂闊でした」
「そこでなのだが、本当に信頼出来る家臣団の大半には王都に残ってもらい、安全な王都魔境で堅実に狩りを続けてもらいた」
「危険なアゼス魔境を避けて、王都魔境で安定的な狩りを行い、兵糧と素材をネッツェ王国の戦場に送れと言われるのですね」
「そうだ」
「ですがそれでは、殿下御側を護る者が不足するのではありませんか?」
「そこは少数精鋭で身辺を護り、戦力は冒険者を雇う」
俺は近習頭のパトリックと色々話し合い、戦いに向かう準備を整えていった。

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