公爵令嬢が婚約破棄され、弟の天才魔導師が激怒した。

克全

第8話

最初領地への逃亡は順調でした。
私と王太子の婚約破棄も、ガルシア公爵家と王家の不和も、どの領主も知りませんでした。
だからガルシア公爵家の威光で、何の問題もなく他領を通過出来ました。
消耗する食糧などの日用品も、十分な量を購入補充する事が出来ました。

王家が本気なら、追討の軍を送る事が可能です。
私達は馬車で逃げていますが、軽騎兵に馬を潰す心算で追撃させれば、追い付く事は可能なのです。
ですが追撃の気配がありません。
伝令を送り、貴族に襲わせる素振りもありません。

おそらく、ルークが怖いのでしょう。
私だって、普段の可愛いルークを知らなければ、恐ろしくて身がすくむでしょう。
それくらいルークの悪い噂は酷いモノです。
まあ、実際、噂は嘘ではないですし、王宮で爆発した魔術士の末路は悲惨でした。
あのような死に方をしたい者など、この世には誰一人いないでしょう

バァーン
グシャ―ン
バッーン

「うわ!」
「何だ⁈」
「何が起こったんだ⁈」
「魔法だ!」
「魔法の攻撃だ!」

「山賊の襲撃です。
馬車から出ないで!
勝手に斬り込んではいけません。
防御を固め、反撃の準備をととのえ、ゆっくりと進むのです!」

噂通り襲ってきました。
でも山賊の方が慌てて騒いでいます。
この峠が山賊の巣窟だとは聞いていました。
大山脈を越える峠は、山中にある二つの城塞都市に二泊しないと、生きて通り抜けられない、国一番の難所です。

多くの山賊団が山中に潜伏し、王国軍や貴族諸侯軍の討伐には、一致団結して抵抗していました。
商人や旅人の襲撃は早い者勝ちで、時に山賊同士の争いもあると聞いています。
彼らから見れば、貴族諸侯軍ほどの規模ではない、ガルシア公爵家の華麗な馬車の一団は、垂涎の獲物なのでしょう。

ですが愚かな判断でした。
ガルシア公爵家の紋章を見て、ルークの事を思い出さなかったのですから。
最初に矢を射掛けてきたのでしょう。
自分達が被害を受けることなく、遠方から人を殺すには最善の戦法です。
護衛を奴隷に確保する利益より、抵抗される事で自分達が死傷する損害を重んじたのでしょう。

ですが、ルークの防御魔法と反撃魔法が発動したのです。
おそらく、王宮で発動したのと同じ魔道具でしょう。
矢を射掛けた山賊は、魔術士と同じように肉片となって爆発したのでしょう。
憐憫の情など一つも沸きません。
これまで山賊達が犯してきた罪を思えば、当然の報いでしょう。

ですが問題があります。
ルークの魔道具の発動時間と発動回数です。
いったい何時まで持つのでしょうか?
これから何度も山賊に襲撃されるかもしれません。
砦の守備兵も何時敵に回るか分かりません。
それまで魔道具に込められた魔力が持つのか心配です。

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