男爵令嬢はつがいが現れたので婚約破棄されました。

克全

第59話

「こういう話になった。
どうする心算だ?」

なんと大胆不敵なのでしょう。
帝国と皇国が存亡をかけた戦争をしているというのに、皇国一の戦士といっていいドルイガ殿が、帝都のハント男爵屋敷前にいるのです。
そこにいて、屋敷の最奥の間にいる私達と話をしているのです。
これが本領の本城前ならまだ理解できます。
我がハント男爵とは密約が交わされていますから。
でも帝都では、帝国軍の精鋭が大挙討伐に現れるのは必定です。

「俺が皇都を訪れるのは構わん。
だが人質は駄目だ。
帝国では確かにこうして帝都に屋敷を構えて家族が住んでいる。
だがそれは鉄壁の護りと逃走の準備が整っているからだ。
そうだな、ドルイガ殿が皇都に屋敷を整え、俺が護りと逃走準備が完璧と判断し、新領地と爵位を与えられたら、家族で皇都に移住しても構わない」

父上が皇帝陛下の出された条件に返事をされました。
母上は不安な表情ですが、反対はされないようです。
デリラも表情を失っていますが、文句は言わないようです。
私も父上が心配ではありますが、反対できる状況ではありません。

「ほう?
受け入れるとは思わなかったな。
本当にそれでいいいのか?
俺とヴィヴィアンの子を、皇帝や帝王に就ける野望を密かに抱いていたのではないのか?」

デリラが真っ青になっています。
その可能性も真剣に考慮していたのですね。
もしかしたら独断で色々と動いていたのかもしれません。
父上と母上の顔つきが一層厳しくなっています。

「ドルイガ殿。
家族で移住するのではなく、私が人質として一人で皇都に住むというのではいけませんか?」

信じられません!
デリラが私と別々に住む提案をしています。
あのデリラが、どういう心境の変化でしょうか?
いえ、それほど私が追い詰められているということですね。
私の命が危険にさらされ、私を護るためにどうしても必要でない限り、デリラが私の側から離れることはありません!

「この声はデリラだな。
よく決断したな。
強度のシスターコンプレックスで、何があってもヴィヴィアンの側から離れないと聞いていたぞ」

ドルイガも二カ月の間に色々と調べたようですね。
まあ、それは私達も同じです。
生き残るために必要な手は尽くしました。
幸いというには弊害がありすぎますが、戦争によって父上の、いえ、母上や私やデリラが個人でやっている商店も、莫大な利益をあげています。
その利益を上げるための情報と一緒に、ドルイガ、シュウガ、ミースロッド公爵家、アリステラ皇国の機密情報も搔き集めています。
その情報を精査した結果、ドルイガもシュウガもミースロッド公爵家も、想像以上に厄介な存在ですし、大陸を統一する力があるのも確かです。

ギャィーン!

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品