男爵令嬢はつがいが現れたので婚約破棄されました。

克全

第24話王太子視点

「ウリャァアァァァ!」

レナードが雄叫びをあげて大魔境を突き進んでいる。
中心部にある大魔窟に辿り着き、いよいよ乗り込もうとしている時に、ゴードン男爵家の伝令がやってきた。
もう一日遅ければ、伝令と生きて会うことはなかっただろう。
伝令はそれほど満身創痍だった。
それほどの僅かなタイミングで出会う事ができたが、それが余にとってよかったか悪かったかは、判断が難しい。

「もう少し力を温存しろ、レナード。
このまま余力を残さないで戻ったら、女房を助けられないぞ。
相手はあのミースロッド公爵家だ。
焦る気持ちは分かるが、本当に女房を大切に思うのなら、自重しろ」

余の言う事が理解できたのだろう。
進む速度を緩めてくれた。
あのペースで魔境から帝都に向かわれたら、余はともかく他の騎士はとてもじゃないがついて行けない。
だがその気持ちはよく分かる。
本当に心から愛する者を失う恐怖は、冷静に考え行動する事を許さない。
ただひたすら動いている事でしか、恐怖を紛らわす方法はない。

「男爵もデリラも、そう簡単にヴィヴィアンをミースロッドに渡しはしない。
動かせるだけの護衛を動員して、屋敷の最奥にある隠しの間で保護するだろう。
余ですら、存在は分かっても押し入る事の難しい隠し間だ。
ミースロッドであろうと、そう簡単に見つけ出すのは不可能だ」

「しかし殿下。
頭では分かっていても、心が不安で圧し潰されそうなのです。
とてもじっとしておれません!」

ああ、まるで親に捨てられた子供のような、不安と恐怖で圧し潰されて、今にも泣き出しそうな表情だ。
思わず抱きしめたくなるが、そんな事はできない。
余はあくまでもレナードの盟友で、戦友なのだ。
余はレナードにとって、莫逆の友なのだ。
それ以上の関係を求めたら、全てをなくしてしまうかもしれないのだ。
そんな事は恐ろしくてとてもできない。

もしヴィヴィアンがミースロッドに攫われたら、レナードは単騎であろうと皇国領ミースロッド領に攻め込み、命を捨ててでも助けようとするだろう。
余や帝国政府がどれほど説得しても、聞き入れてはくれないだろう。
それも当然だろう。
余だってもしレナードがミースロッドに攫われたら、帝王陛下や母上が説得しようとも、聞く耳を持たずに皇国領ミースロッド領に攻め込み取り返すからだ。

もしレナードがヴィヴィアンを見捨てる可能性が少しでもあるのなら、余はどんな策略を使ってでも、レナードを足止めしただろう。
だがそんな事は有り得ない話だ。
どれほど止めてもレナードがヴィヴィアンを見捨てることはない。
だったらレナードが傷つかないように配慮するしかない。
レナードの心を傷つけた腐れ獣人貴族と、欲深く愚かな弟達を、今度こそ皆殺しにしてくれる!

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