男爵令嬢はつがいが現れたので婚約破棄されました。

克全

第16話デリラ視点

私と王太子の話し合いは、互いの利益を尊重する事でまとまりました。
ハント男爵家は、自力でオースティン侯爵家をはじめとする獣人たちに対応すると決めました。
私もそれに逆らう気はありませんが、自分にとって最良の結果を求める気持ちを捨てる気もありません。

それに父の情報を鵜呑みにするほど愚かでもありません。
父は大商人として、国で一二を争う情報網を持っています。
ですが王家も同等の情報網を持っているのです。
その王家の情報と家の情報を照らし合わせれば、情報の精度を今以上に高める事ができます。

なによりも、王太子に睨まれずにすみます。
ハント男爵家の誇りも大切ですが、保身こそ人間の本性です。
だから独断で王太子に接触しました。
まあ、父の事ですから、私の動きは察しているでしょう。
ですが何も言わないはずです。

私と王太子は、ブリーレとクリスチャンに謀叛を起こさせることで一致しました。
私の目的はレナードに武勲を立てさせ、一度放り出した一代辺境伯に復帰させる事です。
忸怩たる想いはありますが、御姉様の婿はレナードが最善なのでしょう。
他の貴族だと、つい私が毒殺してしまう可能性があります。
レナードなら、殺さない程度の殺意で収まるでしょう。

私だって命は惜しいのです。
生涯御姉様の側で生きて行きたいのです。
レナードを殺して、王太子に討伐されるなど御免こうむります。
婚約しても、結婚しても、御姉様はハント男爵家に残ります。
手柄を立てたレナードは、一人寂しく魔境に赴任する事になるのです。

いえ、一人寂しくと言ってしまったら、王太子が怒りますね。
ブリーレとクリスチャンに謀叛を起こさて、王太子とレナードが討伐する。
陳腐な筋書きですが、レナードに手柄を立てさせるのには丁度いいのです。
特に王太子は、またレナードと肩を並べて戦えると喜んでいました。
オースティン侯爵家の叛乱を討伐した後は、レナードと一緒に再度大魔境に遠征するとも言っていました。

そうなのです。
王太子は、ブリーレとクリスチャンに、オースティン侯爵と一族を皆殺しにさせる心算なのです。
ブリーレとクリスチャンの陰謀を事前にオースティン侯爵に知らせれば、侯爵は二人を幽閉するか殺すでしょう。

恐らくは、嫡男だったクリスチャンを幽閉して、可愛いクリスチャンを狂わせた、憎いブリーレを殺す事でしょう。
ですがそれでは、レナードの手柄を立てさせる事ができないし、レナードと一緒に戦う事ができなくなります。
王太子にとっては、オースティン侯爵など何の価値もないのでしょう。

少なくとも、レナードと一緒に戦うためなら潰してもいい程度の存在のでしょう。
王太子が戦争中毒や戦闘中毒でないことを祈ります。
まあ、全てはブリーレとクリスチャンが、オースティン侯爵家の乗っ取りに成功してからの話です。
上手くやってくれればいいのですが。

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