男爵令嬢はつがいが現れたので婚約破棄されました。

克全

第15話ブリーレとクリスチャン

「ああ、愛しているよ、ブリーレ。
もう君なしでは生きていけない。
君のためならなんだってやるよ。
ヴィヴィアンを殺すよ。
王家にだって歯向かって見せる。
王太子だって殺して見せよう」

「私も愛しています、クリスチャン様。
私もクリスチャン様なしでは生きていけません。
クリスチャン様のためでしたら、何でもやります。
一緒にヴィヴィアンを殺しましょう。
一緒に王家に歯向かいましょう。
一緒に王太子を殺しましょう!」

オースティン侯爵家の豪壮な部屋に二人の獣人がいた。
二人は侯爵家に相応しい巨大な天涯付きのベットでむつみ合っていた。
いや、そんな生易しい表現は間違いだ。
まるで殺し合いのように、肉と肉がせめぎ合っていた。
果てしない性欲をぶつけ合う戦いだった。

部屋の中は吐き気を催す臭気に満ちていた。
性交に伴う独特の性臭なのだが、普通では考えられないくらい強烈なのだ。
だが二人には欲望を掻き立てる神々しい香りに感じられる。
配下にどうしても命令を下さなければいけない時以外は、この部屋に籠って互いを貪り合っていた。

まさに番いの呪いと言えた。
人族から見れば、欲望を掻き立てられるどころではなく、眼を背け吐き気を催すだろう。
臭気で催す吐き気ではなく、おぞましい姿を見た事で感じる吐き気だ。
美しい赤鹿と醜い黒豚が、殺し合っているのかと勘違いする激しさで、互いの性器をぶつけ合っているのだ。

だが、このような現場であろうと冷静に観察出来る者なら、赤い鹿が狂ったように交尾に熱中しているのに対して、醜い豚の眼が計算高く輝いている事に気がつく事だろう。
醜い豚が口にする一言一言が、赤い鹿を誘導している事に気がついただろう。
もう赤い鹿は完全に醜い豚の言いなりだった。

「ですがクリスチャン様。
このままでは力が足りません。
オースティン侯爵家の全権限を手に入れなければ、ヴィヴィアンを殺せません。
王太子を殺す事もできません。
王家を打倒して、クリスチャン様に戴冠して頂く事ができません」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。
そうか?
そうだな。
だったらどうすればいい⁈」

何十何百回果てたかも分からないほど、交尾に熱中していたクリスチャンは、息も絶え絶えにブリーレの言葉を反芻していた。
ブリーレの思う壺だった。
出会った頃には残ってたクリスチャンの理性も、今では一片も残っていない。
ブリーレはクリスチャンに、正義のオースティン侯爵家嫡男とは思えない大罪を犯させようとしていた。


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