女将軍 井伊直虎

克全

第102話中国地方の攻防14

1570年『近江・観音寺城』今川義直・直虎

「母上様、直元に武田を名乗らせ安芸守護職を与えたことは、どれくらい効果があるでしょうか」

「さてどうでしょうか、毛利を裏切って幕府に忠誠を誓う者がどれくらい出るかは分かりませんが、少なくとも毛利家中に疑心暗鬼の芽を受け付けたのは確かです」

「そうですね、今元就の影武者を務めている者は武田一門だと聞いていますが、安心して影武者を務めさせられなくなるでしょうね」

「はい、それに最近頭角を現してきた外交僧の安国寺恵瓊が武田の一門だと言う噂です」

「毛利の交渉力が落ちると言うことですか」

「はい、元就の身の周りから外交だけでなく、疑いのある国衆を見張る者も必要となります」

「合戦時の陣立てまで変える必要が出てくると言う事ですね」

「人は無実なのに疑われると、誇りを傷つけられ本当に裏切る覚悟を決めてしまうものです」

「そうなのかもしれませんね、まして忠誠を尽してきた和智誠春の一族が、6年前の無実の罪で謀殺されたばかりですものね」

「はい、疑われた事で、殺される前に本当に謀反を起こすか逃げ出すかするかもしれません。公方様の正式な使者に御教書を運ばせるのは勿論ですが、白拍子や歩き巫女に加え、一向宗の僧にも文を持たせてください」

「やはり村上水軍の襲撃先を事前に伝えていたのは、安芸の一向衆だったのですね」

「元就殿はすでに気づいていて、軍勢の配備も一向衆への対策を立てていましたが、末端の信者までは抑えようがないです」

「一揆にまで持ち込むのですか」

「それは難しいでしょう、安芸の一向宗は元就殿に手厚く保護され、家臣団と轡を並べて戦った仲です」

「なるほど、だからこそ潜んで機を見て一揆を起こさせるのではなく、表だって活動させて毛利家臣団を疑心暗鬼にかけるのですね」

「はい、同士討ちや誅殺でも行ってくれれば、毛利家家臣団は一気に瓦解します」

「では、もう一手打たれるのですね」

「はい、外様の家臣や一部の譜代衆だけでは効果は知れています、一門衆にも調略を仕掛けますよ」

「武田一門・旧武田家家臣」
武田宗慶:武田光和の次男・毛利元就の影武者
安国寺恵瓊:武田信重の子・毛利家に仕える外交僧
国重信正:武田信賢の次男の子孫
品川勝貞:吉川元春の寄騎・益田藤兼の家臣
白井賢胤:小早川隆景の寄騎
香川光景:毛利元就・輝元の直臣
香川元正・香川就親・香川政俊・香川勝雄・香川広景・香川春継
山県春勝一門:吉川元春
熊谷信直:吉川元春の寄騎
己斐興員
中村元信
福井元信


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