女将軍 井伊直虎

克全

第95話中国地方の攻防8

毛利軍と尼子軍が死力を尽くして出雲で戦っていた頃、今川義元率いる幕府軍は破竹の快進撃を行っていた。隠岐為清と三刀屋久扶の顛末を白拍子と歩き巫女から知らされた義元は、独断で敵対する中小の国衆・地侍の降伏臣従を認めることにした。最大でも2万石以下の分郡守護代ではあるが、絶対攻め滅ぼさねばならない守護や大名の配下を幕府の直臣に取り立てていった。

瞬く間に因幡・美作を完全に支配下に置いた義元は、次に備前国内で浦上家に仕える国衆・地侍に、本領安堵と幕府の直臣を条件に降伏臣従の使者を送った。1年に渡る幕府軍との対陣で、農民兵を根こそぎ動員しなければならなくなり、今年の収穫は激減していた。因幡・美作の国衆・地侍が、幕府軍に従軍することで軍資金と兵糧を貸与されている噂を聞き、軍資金と兵糧の貸与を条件に加えて降伏臣従した。

浦上家の家臣一同は、一致団結して勝手知ったる天神山城で一斉に謀反を起こし、浦上宗景と宗辰・成宗の親子を捕らえた。今川義元は浦上親子を僧にした上で、観音寺城の送る事にした。殺してしまった方が禍根を立てるのだが、浦上家の家臣達に精神的な負担をかけるのはよくない。この後寝返る国衆・地侍にも、主君が助命されるのは罪悪感を減らす効果がある。


1569年『近江・観音寺城』今川義直・直虎

「母上様、御隠居様は順調に攻略を進められておられますね」

「はい、このまま毛利を滅ぼすことが出来ればいいのですが、ゆめゆめ油断してはなりません」

「分かりました、阿波の三好の動きがおかしいと聞いています、ここは摂津・和泉・播磨の国衆・地侍に警戒させます」

「そうですね、淡路の安宅水軍と三好の水軍も注意が必要ですね」

「村上水軍が、御隠居様の後方に上陸して乱暴狼藉を働けば、降伏したばかりの備中・備前・播磨の国衆が動揺するかもしれませんね」

「確かにそうなると問題ですが、その動きは事前に知ることが出来るでしょう、問題はその知らせをいかに早く正確に伝えるかです」

「街道に早馬を常駐させましょう、それと湊毎に小早船を配備しておきましょう」

「そうしてください、幕府水軍は軍資金稼ぎに重点を置かせていますから、降伏したばかりの国衆・地侍が持つ戦船を活用いたしましょう」

「しかし母上様、本当に幕府水軍を中国地方に投入しないのですね」

「公方様も一緒に、主だった水軍衆の話を聞いたではありませんか」

「瀬戸内は潮の流れが複雑で、東海や熊野の水軍衆では自在に船を操れないのでしたね」

「勝ち目の薄い場所で戦わせて大切な将兵と軍船を失うくらいなら、最初から合戦に投入することを諦めて、交易で軍資金や兵糧を手に入れた方が利があります」

「そうですね、そのお陰で降伏して来た国衆・地侍に十分な兵糧と軍資金を貸し与える事が出来たのですね」

「後は水軍で劣る所を、御隠居様がどれくらい補って下さるかですが、兵数で優っていますから何とかなります」

「はい」

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