女将軍 井伊直虎

克全

第76話河内侵攻

今川直竜を総大将に、前線に投入された今川勢五万六千兵は河内に殺到した。

直竜足軽:一万兵
三河勢 :三千兵
遠江勢 :二千兵
大和勢 :一万兵
丹波勢 :五千兵
尾張勢 :五千兵
美濃勢 :五千兵
若狭勢 :千兵
雑賀衆 :一万兵
根来衆 :一万兵

それに加えて今川義元が、後詰に一万の傭兵を摂津との国境に集結させていた。更に後方の予備を兼ねた、義直将軍が京守護に派遣している3万兵が御所周辺に展開しているのだ。巨星・三好長慶が亡くなり、後継者である三好義継を裏切った三好三人衆を裏切る者が続出した。

そもそも三好三人衆と分かれているのには理由がある、それぞれが派閥の長であり、その派閥の利益の代弁者なのだ。本当の意味で軍としてのまとまりなどなく、いつ裏切るか分からない存在でもあった。そんな不安定な集団に組するより、新将軍と三好長慶の後継者・三好義継に寝返る方が生き残れると考えて当然なのだ。

三好長逸:三好一族の長老で阿波から仕える三好譜代衆の代表
岩成友通:三好長慶が育て上げた新規家臣団の代表
三好宗渭:元々細川晴元陣営出身で旧細川氏家臣団代表で堺衆とのパイプ役

若江三人衆などの、三好長慶に従っていた多くの河内国衆・地侍は、戦う事無く直竜に降伏した。しかし名門意識を捨てる事の出来なかった、畠山尾州家の畠山昭高と畠山総州家の畠山尚誠は、兵を募って三好三人衆と一緒に戦おうとした。

しかし三好三人衆は、河内に兵を送らなかった。今川義元が大山崎に兵を駐屯させ、摂津に乱入し堺を襲い焼き払うと言う噂を流させたため動けなかった。三好長逸から見れば、畿内本拠地である摂津に攻め込ますわけにはいかなかった。岩成友通にとっては、新規三好家臣団が三好長慶から与えられた領地が多い摂津を優先しなけれならなかった。三好宗渭にとっては、父からの居城・摂津榎並城を失う訳にはいかなかった。それに自分の外部勢力である堺を失えば、三人衆内での影響力が著しく低下してしまうのだ。


1568年『近江・観音寺城』今川義直・直虎

「公方様、側仕えの者に兵を率いさせて紀伊国に討ち入らせてください」

「どういうことですか、直竜に任せるのではないのですか」

「任せたいのはやまやまですが、紀伊を放置してしまうと、畠山の領地を根来衆や雑賀衆に奪われてしまいます」

「将軍家の蔵入地にするのですか、ですがそんなことをすれば、せっかく味方に取り込んだ紀伊の国衆・地侍が叛旗を翻すのではありませんか。いえ、雇っている雑賀衆や根来衆まで三好三人衆に味方してしまうのではありませんか」

「それは大丈夫でしょう、今ある雑賀衆や根来衆の領地を奪うわけではありません」

「しかし横から掠め取るのと同じではありませんか」

「畠山を滅ぼすのに彼らの力を借りれば、紀伊に領地を与えなければならないでしょう。ですが今回はちゃんと銭を支払う契約で、河内・和泉・摂津攻めに雇っています」

「そのために言いなりに大金を約束されたのですか!」

「すでに約定を交わし前金も支払っていますし、彼らの子弟には、働きによって紀伊以外に領地を与えることを条件に陣借りさせています」

「今更文句は言わせないということですね」

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