女将軍 井伊直虎

克全

第70話朝廷献金

1567年『近江・観音寺城』今川義元・直虎

翌日直ぐに義直の今川家の家督継承が行われたが、同時に足利将軍家の征夷大将軍継承に向けて具体的な運動を開始した。まずは将軍家の過去の前例通りの献金を朝廷に納め、吉田兼右の斡旋により「従五位下」・「左馬頭」に叙任された。同日直ぐに足利将軍家を継承したと言う体裁で、着袴・乗馬始・判始の儀式を執行した。

「御隠居様、思っていた以上に順調に官職を頂けましたね」

「宇津頼重・頼章親子を討ち取って、皇室御領を取り返したのが大きかったようだ」

「しかしながら、これで領内の「御料所」「御目録」の提出を、これ以上遅らせる訳にはいかなくなりました」

「お前も義直も、最初からちゃんと納める心算でいたのであろう、俺っちももう反対はせん。義直が征夷大将軍に就任し、今川家が将軍家と成れるなら、領内の皇室御領を正すくらい安いものだ」

「それと朝廷が山科言継様に御命じになられました、内裏築地修理料4000貫文でございますが、将軍家で負担してはいかがでしょうか」

「それを条件に義直の将軍就任を推し進めるのだな」

「駿河・遠江・三河・尾張・美濃・近江・山城・越前・若狭・丹波・大和・北伊勢の皇室御領を正すだけでも莫大な額ではございますが、将軍家なら朝廷を保護するのは当然で仕方ありません。それとは別に4000貫文は大きい金額ではありますが、朝廷としても喉から手が出るほど欲しいと思われます」

「そうだな、安いものとは言ったが、将軍家としてずっと負担せねばならん事だな」

「義直が将軍に就任し、領内の反義直勢力を討伐した後で、全国の大名・国衆に応分の負担を求めましょう」

「どういうことだ」

「将軍家として、各大名の所領に応じて応分の負担金を要求いたします。それに応じない大名・国衆は、将軍として直接討伐して城地を没収すればよろしいのです」

「周辺の大名・国衆に攻め込む大義名分にするのだな」

「はい、それに遠方の負担金に応じない大名・国衆に対しては、敵対する大名・国衆に討伐の御教書を与えることが出来ます」

「そうか、そうだな、そうなれば負担金に応じないと周辺勢力に攻め込まれてしまうのだな」

「はい、征夷大将軍に就任する事が出来れば、それに応じた策を色々と打てると思われます」

「ならば母上の実家・中御門家と四条家・山科家を通じて、征夷大将軍就任を急がせねばならんな」

「はい、それと三好義継様の母上様の御実家・九条家にも動いて頂きましょう」

「ふむ、義継に借りを作りたくはないが、大丈夫か」

「三好家は本来管領になれない家柄ですが、女系とは言え九条摂関家と足利将軍家・近衛摂関家の血が入っているのです。今川将軍家の管領家にするのに不足はないでしょう」

「それを餌に働かせるのか」

「はい」

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